森達也「チャンキ」743冊目

この人の監督したドキュメンタリーはたくさん見てるしノンフィクションの本も読んでるけど、小説を書いてるとは知らなかった。厚い!

冒険RPGのような小説で、つまり村上春樹作品のようでもある。その章に出てくるフレーズを章タイトルにしているところなんかも。多分そこを指摘すると、そういう体裁をとって自分の言いたいことを書くのが意図だと言われそうな気がする。

すごく文章がうまくてストーリーテリングもうまいと思うけど、なんともまどろっこしいのは、最後の落としどころが見えないまま、日常がずーっとずーっと続いていくからかな。短気を起こしそうな気持ちを抑えて、禅の気持ちで(ほんとか)読み進めていくと、だんだん、登場人物に随行しているような不安な気持ちで物語に入り込んでいきます。

読み終わってみて。著者にはこの国がこんな風に見えているのかな。私も、国の統治が及ばなさそうな山奥とか、どこでもいいから外国に逃げ出そう、と思うことがあるから共感もするけど、どこの国の人間も、おおもとはそれほど違わないんじゃないかと思うので、どこに逃げてもしょせん同じじゃないかな。この本の中で日本に蔓延している”タナトス”は、遅かれ早かれ地表全体に広がる。日本だけが特殊だという設定は、ちょっと偏っていると思う。

タナトス”に取りつかれたときのために、まだ意識が残っているうちに自己注射できる強烈な鎮静剤が入ったベルトを常時手首に巻き付けておく。とか、タナトスを偶然生き延びた人の血液から血清を作って、罹患しやすい若い女性から予防注射を打つ、とか、対抗手段を講じる人々の存在も描いてくれたら、もう少し受け入れやすかったかも、と思いました。