高野秀行x清水克行「辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦」674冊目

高野秀行の辺境書を何冊か読んだ流れで、これも読んでみました。

急にハードル上がったかな。歴史をまるきり全然勉強してこなかった、受験科目からも外した私には、出てくる日本史上の話にまったくついていけません。でもすごく面白い。辺境を目指す人たちは、追いやられた可哀そうな人たちなのではなくて、国とか政府から離れて自由に暮らしたかった人たちである、とか。先日「ノマドランド」を見てきたばかりで、あの映画に出てくる人たちも貧しくて社会から置いてかれた人たちとも言えるけど、帰っておいでと言ってくれる家族がいてもあえていつかずに旅を続ける人も多い。むしろ、年をとっていろんなしばらみから逃れてやっと望む自由を手に入れたという感じも受けました。今この時代にそういうノマドがたくさんいるのに、何世紀か前のこの世界に、そういう人たちがいなかったと考えるほうが不自然なのです。

というのは最初の本「ゾミア」についてのコメントで、この本ではその後も合計8冊の奇書(であり名著)が紹介されます。面白いのは、対談の中に相手の発言に対する「受け」「反応」がほとんどないこと。「へぇそうなんですか」「知らなかったなぁ」「驚きました」等々。特に高野さん、相槌ひとつうたない(笑)(文字数が多くなるから切り捨てただけかな?)。物知りで好奇心旺盛な二人が、勝手に言いたいことを言い合っている。教訓も結論もない(当たり前だけど)。この本を読んでる者は、最初から最後まで、中に入れてもらってないような感覚がありますが、あまりの奇矯な世界なので、多分みんな何冊か読んでみたくなると思います。かつ、特別に自分の琴線に触れる本がどれか、という点で、読む人の志向が明らかになってしまうという、恐ろしい本でもあります(ほんとか)。

 

「月10万円で豊かに暮らせる町&村 Vol.1と2」672~3冊目

年金が出るまでまだあと10年もある。それまで(それ以降も)なるべく貯金を減らさずに暮らすにはどうすればいいか…。収入を増やすか。でも今はフルタイムでガチガチに働くのはもうしばらく休みたい(あるいはこのままやらずにすませたい)。そうなると生活費を減らすしかないわけで、この本のタイトルにぐxぐっと惹かれてしまうわけです。

この本では29組のファミリーが日本の山、海辺、島へと移住した後の生活の経済やその暮らしがつづられています。テレビ東京の番組のの書籍化。2005年に出てるんだけど、今の方が売れそう。再版かかってたりして?

月10万円の中には家賃(だいたいすごく安い、2万円以下がほとんど)や住宅ローンが含まれてることもあるけど、まったく記載がない場合は移住前に住宅購入済(今はローンなし)だったり、無償で住居の提供を受けたりしてることもあります。食費がやけに安い一家は、夫は漁業、妻は自分たちで食べる分くらいの米を作っていたり。

しかしすべてが夫婦もの。一人も知り合いがいない町や村に移住するので、家族がいないと無理、なのかな。中年女性一人でやっていける町はないのか…。一緒に住むルームメイトでも見つけないとだめかな。

2冊読んだら、けっこう日本中どこでもいけるんじゃない?という希望が湧いてきましたが、興味を持ってググってみた民泊やレストラン(移住者が始めたやつね)がまったくヒットしなかったのは残念。でもそれより何より、このとき「移住ドットコム」など立ち上げていた番組監修者が、今ググるとFXで儲けるメルマガしかヒットしないのが、ちょっと切なかったです。。 

 

高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」671冊目

海外旅行いけないなら、高野秀行の本を読んでればいい。というか下手に海外旅行行くより面白くて充実してる。というかこんなところ一生行けない。

この本は、物騒な予感がするので後回しにしてたけど、思い切って読み始めたら、いつも通りの抱腹絶倒ぶりでした。

現地の人とすぐに昔馴染みみたいに仲良くなれるのがすごい、どころじゃなくて、今回はソマリ人の複雑な氏族の関係を恐ろしいほどよく理解して、戦国時代の日本になぞらえて図解までしてくれているのが、すごい。昔「電波少年」か何かで矢部太郎が小さい国の辺境の家にホームステイしながら言語を学ぶ番組で、彼の言語能力に驚いたけど、それに匹敵する言語能力をお持ちです。めちゃくちゃ地頭のいい人だなぁ。

人間と人間が作ってるのがこの世界だから、人間を知る力がある人は最高に強い。「ブータンソマリランドは、国際社会に認められるために良い国を作り続けてる」っていう動機を見抜いたのはすごい。ブータンには行ったことがあって、留学経験のあるエリートの若い子たちと遊びに出かけて話もしたけど、外交レベルでどういう意図が働いてるかなんてことまで、考えもしなかった。

旅に出る理由は、好奇心が抑えられなくて、「知りたい」気持ちが湧きだしてきたらもう止められないから。そうじゃない理由のときもあるけど。これほど人を知ってる人が日本の中心部に定住して、会社やら政治やらの上の方にいてくれたら、もう少し人を中心にした運営ができるんじゃないかと思うけど、そういうのには興味ないんだろうな~。

あまりに面白いので、もっとこの人の本読んでみよう。 

ジョシュア・フィールズ・ミルバーン+ライアン・ニコデマス「minimalism 30歳からはじめるミニマルライフ」670冊目

荷物を減らして田舎暮らしをしたい、キャンピングカーで生活したい、とつぶやきながらまたこんな本を借りてみます。(ガラクタでいっぱいな部屋の中で読んでる)

ハウトゥも少しはあるけど、ほぼ全編が、過剰でストレスフルな生活から不要なものを排除してミニマリズムへ君もおいでよ、という内容でした。なんか…あまり繰り返し言われると、ネットワークビジネス自己啓発、あるいは逆にミニマリズムに自信のない自分たちを鼓舞してるようにも見えて、なんともいえない感じです。

なぜなら、勝手に早期リタイアして低収入で暮らすようになった私は、まだまだガラクタに囲まれて整理ができてないけど、今の生活が満ち足りてるので、誰かにそのことを発信しようという気にならないから。繰り返し繰り返し、ミニマリズムを説く心理ってどういうものなんだろう。

もっと私がピンポイントで求めている本がどこかにあるんじゃないかと期待してるので、他にも探して読んでみたいと思います。

 

立花珠樹「もう一度見たくなる100本の映画たち」669冊目

この著者の「あのころの日本映画が見たい」を手に取ったのが、私が映画を片っ端から見るようになったきっかけでした。なぜか感想文が残ってないけど多分2011年のこと。ちょうど10年前ですね。新刊が出てたのでさっそく読んでみます。

目次をぱらぱら…この10年間で3000本近い映画を見てきたので、まだ見たことがない映画はもうわずかです。「ウンベルトD」、アニエスヴァルダの「幸福」、「暗くなるまで待って」、「ケス」「ピロスマニ」「激突!」「ピンクパンサー2」「大統領の陰謀」「グリニッチビレッジの青春」「隣の女」「ライトスタッフ」「恋人たちの食卓」「ムッソリーニとお茶を」「ヤンヤン 夏の思い出」「国際市場で会いましょう」、そういえば「お熱いのがお好き」はこの10年で見直してないことに気づいたので、見てみよう。

今私が契約してるVODなどで入手できないのは「クローズアップ」だけでした。

ダスティン・ホフマンアッバス・キアロスタミなど、出演本数にしては複数登場する人たちもいるのは、純粋に好きなものを選んだからなのでしょう。

初めてこの著者の本を読んでから10年、背中を追いながらこれからも映画を見て感想を書き続けていこうと思います。

もう一度見たくなる100本の映画たち

もう一度見たくなる100本の映画たち

  • 作者:立花 珠樹
  • 発売日: 2020/03/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

J.T.リロイ「サラ、いつわりの祈り」668冊目

これが「J.T.リロイ」名義での2冊目。時系列的にはこっちがずっと先で、4歳のジェレマイアが里親から娼婦の実母サラのところに戻され、福祉の人が聞いたらただでは済まないような逆境の中でゆがみながら育っていく様子がつづられています。

これってちょっと前なら作者不詳の「ケータイ小説」として出たようなものなんだろうな。

まだ10歳にもならない頃から母親に憧れて彼女の男を誘って、何針も縫うようなケガをしたり。お役所的にはこっちの小説のほうが年齢が低い分アウトだと思うけど、なんとなくこっちのほうがリアル。作者は結局のところ女性だったのに。

ウソはどこまでが許されるウソで、どこからが詐欺なのか。ウソのまったくない小説なんて存在するのか。

いろいろとモヤモヤ考えてしまうけど、本の内容も、著者の生い立ちから今へ至る人生も、マスコミの扱いの天と地も、すごく興味深い現象だなと思います。誰一人傷つけることなく歴史に自分の足跡をつけられたのは、やっぱりけっこうすごいことだったのかもしれません。

この本の映画も見てみよう。 

サラ、いつわりの祈り (Book plus)
 

 

J.T.リロイ「サラ、神に背いた少年」667冊目

VODで「作家、本当のJ.T.リロイ」を見たら読みたくなってしまった。これを書いて、JTリロイのマネージャーとして世に出たローラ・アルバートという女性は、虚言癖なのか多重人格なのかわからないけど、人を騙して儲けようという意図でやったのではなさそうだという感じはしました。

彼女が小さいとき父親の知り合いに性的虐待を受けて脅されていたこと、恋人との関係がうまくいかなくなると匿名でカウンセリングの電話をかけて性別を偽って過去を語っていたことは、リアリティをもって映画を受け止めたし、この本ではなく2冊目の「サラ、いつわりの祈り」にそのあたりのエピソードだと思われることが書かれているようです。一方この1冊目の本では、サラという娼婦の息子、ジェレマイアという美少年が「もっと大きいアライグマの骨が欲しい」と思って男娼となります。さらに野望を抱いて別の町までトラックに便乗していって着いたのは少女たちをトラック運転手にあっせんする宿。そこで少女と間違えられ、聖人扱いを受けたのちに少年だと露見し、劣悪な条件で男娼をさせられた後、元いたところへやっと連れられて帰ります。というお話。

売春仲間となる少女や少年がなんともカラフルで、ものすごく個性的。みんな何かのアーテイストみたいです。それと、アメリカの普通のダイナーでは絶対出さないような高級な料理について書かれている箇所がやたらと多い。そんな料理を、少年がもといたところのレストランでは出してたというのです。そんなこんなで、この作品を読んだ感じでは、実体験に基づいてると想像できる部分は少ないです。売春したことやポン引きが変わってその後連れ戻されたこととかは、もしかしたら似たようなことがあったかもしれないけど、聖人だとでっち上げられたことなど多分ないし、男か女かわからない立場でいたことも多分なかったでしょう。

非常に想像力豊かな人が書いたんだなと思うけど、なんでこれを「実際に起こったこと」だと思うんだろう、と不思議。アメリカには「オン・ザ・ロード」みたいなアウトローな自由人に憧れる人が多いのかな。

日本語訳が出版された時点でも、まだ少年の自伝的小説だとほとんどの人が思っていたらしい。自伝と自伝的小説の違い。書いた人のアイデンティティ。歴史的名作には、後世になるまで著者が女性だと知られていなかったものもある。「1Q84」の「ふかえり」を思い出したりもしました。これはまだまだ深堀りするといろいろ出てきそうな面白い論点だという気がします。