西日本新聞「九州の100冊」676冊目

私が好きな作家として挙げる村田喜代子佐藤正午松下竜一という3人は全員九州の人だ。なかでも松下竜一西日本新聞の短歌の投稿欄で頭角を現した人なので、きっと彼のことが書いてあるに違いないと思って借りてみたら、案の定取り上げられていました、3人とも。

この本のもとになった新聞連載が2004~2006年。2000年代の九州は、「地方の時代」というお題目と裏腹な人口の減少、文化の衰退を売れいていた時期だったので、この本(本自体は去年出たばかり)もちょっと悲観的な調子なのですが、コロナで一気に首都圏集中が崩れた今、改めて読まれるべき本じゃないかなと感じます。

読み始めてすぐに気づいたのは、記名記事として書かれた個々の文章の素晴らしさ。学生の頃に読んだ小林秀雄を思い出してしまった。元来、新聞社の社員たちにはこのくらいの技量があったんじゃないのかな。長い間、新聞記事もネット記事も、論説もブログも、調査が十分じゃないという以前に、書き手の芯が感じられず、「人に自分を主張するために書いてる」だけのように見えるものばかりと思っていました。本当に久しぶりに、書いている人の力をこめた文章が詰め込まれた本に出合えて、読むことの喜びを味わっています。

そして当然、記事で紹介されている本も次々と読みたくなってきます。2週間の期限では全然読み進められず、1週間延長してもまだ最初の10冊分くらいしか読めていないので、この本は買います。手元においてじっくり読んでいきたい。

読んでるうちに、故郷である九州に戻ってまた暮らしてみたいと思えてきました。読み捨てられるものを書き続けて、たくさんお金を稼がないと暮らしていけない都会とは違う、時間の流れとお金の流れが、田舎に行けばあります。まだ体が動く50代のうちに、やりたいことをやろうと思って(勝手に)早期退職したので、せっかくの自由をもっと有効に使えるんじゃないか…。

そんなことを考えながら、本が届いたら「14 忘れられた日本人」からまた読み進めます。 

高野秀行「移民の宴」675冊目

今度は日本国内にある、各国からの移住者コミュニティを訪ねて、彼らのご飯を見せて(食べさせて)もらうという企画。海外に出ることも戻ることも難しくなっている昨今、これはいい企画だ(書かれたのは10年も前だけど)。

たいがいの海外からの移住者は、自分たちに注目して話を聞きに来られるのは、特に迷惑な理由がないかぎり、悪くない気持ちなんじゃないかなぁ。鶴見のブラジルx沖縄、西葛西のインドなどは有名で、いつか出かけてみたいけど、とりあえずチラ見できて嬉しい。

今日はカンボジア料理食べてきたけど、個食でも黙食でもテイクアウトでも何でもいいから、お外のものが食べたいです…

 

高野秀行x清水克行「辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦」674冊目

高野秀行の辺境書を何冊か読んだ流れで、これも読んでみました。

急にハードル上がったかな。歴史をまるきり全然勉強してこなかった、受験科目からも外した私には、出てくる日本史上の話にまったくついていけません。でもすごく面白い。辺境を目指す人たちは、追いやられた可哀そうな人たちなのではなくて、国とか政府から離れて自由に暮らしたかった人たちである、とか。先日「ノマドランド」を見てきたばかりで、あの映画に出てくる人たちも貧しくて社会から置いてかれた人たちとも言えるけど、帰っておいでと言ってくれる家族がいてもあえていつかずに旅を続ける人も多い。むしろ、年をとっていろんなしばらみから逃れてやっと望む自由を手に入れたという感じも受けました。今この時代にそういうノマドがたくさんいるのに、何世紀か前のこの世界に、そういう人たちがいなかったと考えるほうが不自然なのです。

というのは最初の本「ゾミア」についてのコメントで、この本ではその後も合計8冊の奇書(であり名著)が紹介されます。面白いのは、対談の中に相手の発言に対する「受け」「反応」がほとんどないこと。「へぇそうなんですか」「知らなかったなぁ」「驚きました」等々。特に高野さん、相槌ひとつうたない(笑)(文字数が多くなるから切り捨てただけかな?)。物知りで好奇心旺盛な二人が、勝手に言いたいことを言い合っている。教訓も結論もない(当たり前だけど)。この本を読んでる者は、最初から最後まで、中に入れてもらってないような感覚がありますが、あまりの奇矯な世界なので、多分みんな何冊か読んでみたくなると思います。かつ、特別に自分の琴線に触れる本がどれか、という点で、読む人の志向が明らかになってしまうという、恐ろしい本でもあります(ほんとか)。

 

「月10万円で豊かに暮らせる町&村 Vol.1と2」672~3冊目

年金が出るまでまだあと10年もある。それまで(それ以降も)なるべく貯金を減らさずに暮らすにはどうすればいいか…。収入を増やすか。でも今はフルタイムでガチガチに働くのはもうしばらく休みたい(あるいはこのままやらずにすませたい)。そうなると生活費を減らすしかないわけで、この本のタイトルにぐxぐっと惹かれてしまうわけです。

この本では29組のファミリーが日本の山、海辺、島へと移住した後の生活の経済やその暮らしがつづられています。テレビ東京の番組のの書籍化。2005年に出てるんだけど、今の方が売れそう。再版かかってたりして?

月10万円の中には家賃(だいたいすごく安い、2万円以下がほとんど)や住宅ローンが含まれてることもあるけど、まったく記載がない場合は移住前に住宅購入済(今はローンなし)だったり、無償で住居の提供を受けたりしてることもあります。食費がやけに安い一家は、夫は漁業、妻は自分たちで食べる分くらいの米を作っていたり。

しかしすべてが夫婦もの。一人も知り合いがいない町や村に移住するので、家族がいないと無理、なのかな。中年女性一人でやっていける町はないのか…。一緒に住むルームメイトでも見つけないとだめかな。

2冊読んだら、けっこう日本中どこでもいけるんじゃない?という希望が湧いてきましたが、興味を持ってググってみた民泊やレストラン(移住者が始めたやつね)がまったくヒットしなかったのは残念。でもそれより何より、このとき「移住ドットコム」など立ち上げていた番組監修者が、今ググるとFXで儲けるメルマガしかヒットしないのが、ちょっと切なかったです。。 

 

高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」671冊目

海外旅行いけないなら、高野秀行の本を読んでればいい。というか下手に海外旅行行くより面白くて充実してる。というかこんなところ一生行けない。

この本は、物騒な予感がするので後回しにしてたけど、思い切って読み始めたら、いつも通りの抱腹絶倒ぶりでした。

現地の人とすぐに昔馴染みみたいに仲良くなれるのがすごい、どころじゃなくて、今回はソマリ人の複雑な氏族の関係を恐ろしいほどよく理解して、戦国時代の日本になぞらえて図解までしてくれているのが、すごい。昔「電波少年」か何かで矢部太郎が小さい国の辺境の家にホームステイしながら言語を学ぶ番組で、彼の言語能力に驚いたけど、それに匹敵する言語能力をお持ちです。めちゃくちゃ地頭のいい人だなぁ。

人間と人間が作ってるのがこの世界だから、人間を知る力がある人は最高に強い。「ブータンソマリランドは、国際社会に認められるために良い国を作り続けてる」っていう動機を見抜いたのはすごい。ブータンには行ったことがあって、留学経験のあるエリートの若い子たちと遊びに出かけて話もしたけど、外交レベルでどういう意図が働いてるかなんてことまで、考えもしなかった。

旅に出る理由は、好奇心が抑えられなくて、「知りたい」気持ちが湧きだしてきたらもう止められないから。そうじゃない理由のときもあるけど。これほど人を知ってる人が日本の中心部に定住して、会社やら政治やらの上の方にいてくれたら、もう少し人を中心にした運営ができるんじゃないかと思うけど、そういうのには興味ないんだろうな~。

あまりに面白いので、もっとこの人の本読んでみよう。 

ジョシュア・フィールズ・ミルバーン+ライアン・ニコデマス「minimalism 30歳からはじめるミニマルライフ」670冊目

荷物を減らして田舎暮らしをしたい、キャンピングカーで生活したい、とつぶやきながらまたこんな本を借りてみます。(ガラクタでいっぱいな部屋の中で読んでる)

ハウトゥも少しはあるけど、ほぼ全編が、過剰でストレスフルな生活から不要なものを排除してミニマリズムへ君もおいでよ、という内容でした。なんか…あまり繰り返し言われると、ネットワークビジネス自己啓発、あるいは逆にミニマリズムに自信のない自分たちを鼓舞してるようにも見えて、なんともいえない感じです。

なぜなら、勝手に早期リタイアして低収入で暮らすようになった私は、まだまだガラクタに囲まれて整理ができてないけど、今の生活が満ち足りてるので、誰かにそのことを発信しようという気にならないから。繰り返し繰り返し、ミニマリズムを説く心理ってどういうものなんだろう。

もっと私がピンポイントで求めている本がどこかにあるんじゃないかと期待してるので、他にも探して読んでみたいと思います。

 

立花珠樹「もう一度見たくなる100本の映画たち」669冊目

この著者の「あのころの日本映画が見たい」を手に取ったのが、私が映画を片っ端から見るようになったきっかけでした。なぜか感想文が残ってないけど多分2011年のこと。ちょうど10年前ですね。新刊が出てたのでさっそく読んでみます。

目次をぱらぱら…この10年間で3000本近い映画を見てきたので、まだ見たことがない映画はもうわずかです。「ウンベルトD」、アニエスヴァルダの「幸福」、「暗くなるまで待って」、「ケス」「ピロスマニ」「激突!」「ピンクパンサー2」「大統領の陰謀」「グリニッチビレッジの青春」「隣の女」「ライトスタッフ」「恋人たちの食卓」「ムッソリーニとお茶を」「ヤンヤン 夏の思い出」「国際市場で会いましょう」、そういえば「お熱いのがお好き」はこの10年で見直してないことに気づいたので、見てみよう。

今私が契約してるVODなどで入手できないのは「クローズアップ」だけでした。

ダスティン・ホフマンアッバス・キアロスタミなど、出演本数にしては複数登場する人たちもいるのは、純粋に好きなものを選んだからなのでしょう。

初めてこの著者の本を読んでから10年、背中を追いながらこれからも映画を見て感想を書き続けていこうと思います。

もう一度見たくなる100本の映画たち

もう一度見たくなる100本の映画たち

  • 作者:立花 珠樹
  • 発売日: 2020/03/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)