紋谷暢男 編「JASRAC概論」858冊目

JASRACの細かい規定が知りたくて本を探したんだけど、これ以外には見つからず(他はみんな批判的なものばかり)、借りてみたのですが、実務よりJASRACの歴史や法的根拠を書いた本でした。間違えた~~

以前受講した、日本音楽出版社協会の「音楽著作権管理者養成講座」は、長時間・長期間にわたるものだったってのもあるけど、非常に微に入り細に入り、この本で解説されてるJASRAC音楽出版の歴史だけでなく、実務の細かいQ&Aまで網羅されてました。そういうのをまとめた本がないかなーと思ったんだけど、そうなると、その「養成講座」のテキストを入手したほうがよさそうだ。(受講したときのテキストはもう自分の手元にはない)12000円するので、ちょっと考えてみます・・・。

 

遠藤周作「影に対して」857冊目

この短篇集を読むとき、主人公の姿を「のび太」として思い浮かべるといい。

小説のなかでは一人っ子のこともあれば、兄がいる設定のものもある。弟と考えた方が、主体性のなさがイメージしやすい。

父と別れてひとりで息子を育てている母の財布から、小銭をくすねたり、小物を盗んで売ったりして、お菓子を買って食べる少年。母が倒れてから亡くなるまで、悪い友人の家で解像度の悪いエロ写真に見入っていた少年。

中年になり、彼は自分が憎々しく感じていた父よりも時折卑怯な男になっている。たいがいの人の中にある良い子や悪い子の中から、気弱ですぐ逆上する「のび太」を描くことには勇気が要る。普段自分を少年マンガのヒーローに重ねてる人も、こういう本を読むと、自分が昔のび太だったことを思い出して、ため息がつける。

 

「沈黙」とか「海と毒薬」で、この作家はものすごくストイックで自分にも人にも厳しい人だと思ってたけど、むしろ「のび太」を心に住まわせ続けた人で、そのために、踏み絵を「踏んだ人」、転んで生き延びたほうの人を気にかけ続けたのかな、と思った。

 

家庭を顧みず(いや、愛しつつも情熱をごまかせず)バイオリンや宗教に熱中した母親のことを、理解したり共感したりした人は、彼女の同世代にはいなかったのかもしれないけど、息子は崇拝し続けたんだ。うまく生きていける人だけが人間じゃない。「がんばれ」や「明日がある」「きっと報われる」に疲れたときに読むこんな本が必要なんだよな。

森・濱田松本法律事務所 編「情報コンテンツ利用の法務」856冊目

良書だなぁ。

よく疑問に思うけど判断基準がわかりづらいトピックについて、しっかり過去の裁判例を示して非常に論理的かつ簡潔に説明してあります。専門の弁護士にちょっと相談してみたら、こういう意見がビシッと返ってきそう。この法律事務所に実際に相談するハードル(とおねだん)の高さを考えると、コスパ最高です。

実際の、たとえば映像制作の現場では、何をどこまで「写り込み」と判断するか、それとも許諾が必要なものとしてカットするか、といった決定が日々繰り返し行われていて、その中には厳密な著作権法の解釈ではなく、長年の業界慣習に基づくものも多々あります。でも、慣習にずっと頼り続けていると、だんだん法律からかけ離れていってしまって、「なんのための著作権法だよ?」と思うこともあったりして、時々こういうバイブル的な本に立ち返って確認することはとても大切。

この本も図書館で借りたものだけど、手元に置いて、わからないことをすぐに調べたいので、買います。

安藤和弘「よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編 6th Edition」855冊目

広い範囲を整理してまとめてあって、かつ、各章の冒頭のマンガでポイントがつかみやすい。実践編だけど初心者にも良い本だと思います。

知財にかかわる仕事を長いことやってるけど、途中何度も抜けたので、法律がどんどん変わってるし、一生関わっていこうという覚悟がなかったので、基本的なことをポロっと忘れてたりする。

たまにこういう本を、斜め読みでもいいから、一通り見ておくと安心。

初心者にも、実務家にもいいんじゃないかな。

骨董通り法律事務所 編「エンタテインメント法実務」854冊目

買う前に図書館で借りてみたのですが、必携だとわかったのですぐに買います。

エンタメ関連の法律解釈・運用に関して、福井先生をはじめとする骨董通りの先生方の信頼度は高い。交渉力が比較的低い実演家の立場をつねに配慮しつつも、レコード会社や放送局の立場も理解し、誰が相談しても納得できるおとしどころを提示してくれる、愛ある事務所です。

この本は百科事典のように、たとえば映画、たとえばゲーム、といったジャンルごとに、基本的な法律の解説から最近の裁判例、タイムリーな話題などを取り込んでいて、読んでも面白いけど、常に手元に置いて判断に迷ったときに参照したい本です。

500ページ近くあるけど、それでも足りない・・・全然足りない・・・。実務をやってると、法律の重箱の隅をつつくような微妙な案件がどんどん出てくるし、法律はこうだけど現実に許可を取りに行きようがない案件も多い。

第2弾、第3弾、ともっと出してほしい・・・。

莫理斯「辮髪のシャーロック・ホームズ」853冊目

これは面白かった!

ツカミが最高ですよね。シャーロック・ホームズものは最近かずかずのリメイクが行われていますが、辮髪は初めてです。

という引きが強くてさっそくページをめくってみると、「序」に昔の中国っぽい意味不明な漢語が並んでいます。くじけそうになって、先に著者と訳者の「あとがき」を読んでみると、かなり古風な中国語の文体であえて書かれていて、日本語訳でもそれを生かしたとのこと。演出か、とちょっと安心して、改めて読み始めてみたところ、わからない言葉が多いのをいったんスルーして読めば、どんどん頭に入ってきます。これは短編集なのですが、最初の作品「血文字の謎」には語の説明がさりげなく(いや、本当にさりげないんですよ)混ぜ込んであって、すぐに全部は覚えられないにしろ、少しずつ慣れていきます。

それにしても「もじり」が楽しい。ホームズだのハリウッドだの・・・。そもそも香港の地名には英語をあてはめたものが多いし。しばらく行けていない香港のあちこちの地名を見るのも懐かしく楽しい。

ストーリーも、トリックも、登場人物の性格付けも、じつにしっかりとして本格ミステリーに近いけど、茶目っ気たっぷりなのにクールを装ったような英国式?香港式?ユーモアもあって、最初から最後まで楽しんで読めました。これ映画化してもいいんじゃないかなぁ。英国人に化けても通用する長身のシャーロック・ホームズ役は、チャン・チェンがいいんじゃないかしら。辮髪必至だけどね!(中国語圏の映画、最近それほど見てないので、他のキャストは思いつかない)

全4巻になる予定とのこと。引き続き読んでいきたいと思います。

セーアン・スヴァイストロフ「チェスナットマン」852冊目

面白かった。翻訳もいいんだろうけど、ぐいぐい読ませる、確かな筆力のある作家だなと思います。

でもね、わたしは猟奇殺人は好かんのですよ・・・この本も、のっけから不必要に残酷な殺人があり、それに根拠を与える積年の恨みつらみが徐々に提示される、という構成。その辺に既視感があるし、理屈として成り立ってる気もするけど、人はそういう風に人を恨んだり殺したりするもんかな、という、納得できる心の動きを展開して見せてほしい、という気持ちも残ります。(アガサ・クリスティなら「非ミステリ」作品でも目が覚めるような人心の描き方をしてたなー、と思いだしてます)

本格ミステリ愛好者」からは、凶器の扱いが雑という感想が出るかもしれない。最近のバカ売れするミステリーって、最初からビジュアル重視というか、ドラマか映画にしたときの説得力とかエンタメ性を文章のときから意識してる印象がありますよね。この作者はもともと映像制作をしてた人だと聞くと納得します。

なんか、だんだん、ミステリーは本物の人間を離れて、架空の人間世界でアバターを動かしてるような感じになってきました。一方の現実世界の犯罪は、常に即物的で無計画に、けもののように行われている気がしてくる。

改めて、私が読みたいものは、こういう完璧なエンターテイメント志向ではなくて、泥臭くてご近所で起こりそうなものなのかな、とか思うのでした。