前に「ジニのパズル」を読んでとてつもなく切ない気持ちになったなぁ。これは彼女の次の作品であり最新作。読んでてすごく辛くなるんじゃないかなと思いながら読み始めて、最初のほうはけっこうチクチクしてたんだけど、まず、すごく面白かったと言いたい。率直で鋭い感性で、表現力も高くて文章がうまい。この本がどの程度自伝的なのかわからないけど、たぶんこの人には、自分が体験していることの面白さや美しさを感じ取る力があるので、今後も自分の生活の中からいろんなものを拾い上げて見せてくれるんだろうなと思います。
あけすけな会話がいいですよね。アルゼンチンの映画でも見てるような。外国っぽいという意味じゃなくて、なかなかここまで思ったことそのまま口に出す日本の小説を読む機会は多くない、という意味。「わたし」も安城さんも由香も「君」も、表面に見せる緊張感から心のひだの内側まで、読むほうに伝わってきます。
決して暗い小説ではなかったけど、最後の最後、終わり方を迷ったんじゃないかな?ちょっと、いかにもな感じで明るくまとめすぎてないかな。私は、ぼんやりと終わってくれても良かったんだけどな。
この人ほんと才能あると思うので、できることなら(コロナが明けたら)旅とかしてまったく新しい人たちと出会ったりして、さらに新しい世界を体験して、見せてくれたらいいなー、などと思ってしまいました。
(2020年9月28日発行 1500円)