古川安「津田梅子 科学への道、大学の夢」804冊目

脚注や参考文献だけで全体に1/5くらいはありそうな、学術書として発表されたけれど、伝記として読むのも正しい本です。

重要なポイントは、今までの津田梅子の伝記は、梅子の側の人間が彼女を中心として調査したものだったのに対し、この本は科学史を専門とする著者がたまたま住んでいた町にブリンマー大学があったことから、ブリンマーの理科系学部へのアクセスの強さや科学にまつわる歴史の専門家である、という点で、今までにない視点からの分析があること。研究者としても将来を大変嘱望されていたとは聞いてたけど、それが具体的にどれほどのことだったのか、記録や背景状況から具体的に浮かび上がって見えてきたと感じました。

梅子、女子英学塾やその後の津田英学塾の先生方がときに文科省におもねるようにも見える請願、たとえば「英語教育は戦時下においても重要なので残してください→女子に理科教育を行うことでお国に尽くします、etc」については、一貫性がないと批判する見方もあるかもしれないけど、私は大いに支持するなぁ…。プロセスより結果を重視する、現実的なものの動かし方だ。生き延びてナンボだ。女子教育を津田塾が諦めたら誰が守ってくれる?

他には、梅子が直接教えた山川菊栄に「トルストイなど読んでいてはだめだ」と厳しく叱責した話などは人柄のわかるエピソードで面白かったです。「アンナ・カレーニナ」「戦争と平和」どちらも体制や夫に反発して愛に走る激しい女性が出てくる。そりゃ確かにこのヒロインたちはall-round womenの対極だ。

先日放送された梅子のドラマで、梅子を広瀬すずが演じていたのが違和感あるなぁと思っていたけど、改めて若い頃の梅子の写真を見ると、意思が強く自分を信じるエネルギーを蓄えてどっしりしている感じの佇まいが、意外と似てるなと思いました。