常盤文克「ヒトづくりのおもみ」129

121、124につづく「モノ・ヒト・コト三部作」の最後。

面白かったです。3冊目にもちゃんと新しい発見があります。

3冊読むことでやっと見えてくる作者の特徴も、あります。

たとえば。

p33 英国のオックスフォード、ケンブリッジ両大学では、「いかに下手に話せるか」というエリート教育を行ってきた。無難にまとめた内容を上手に話すより、下手でも内容の濃い話を誠実に話す方が聞き手に訴えかけ、思考を促す、ということだそうです。・・・これね、真実なんですよ。大学院で何度もプレゼンをさせられたけど、ものすごーく話がうまい人は、話の内容じゃなくて話がうまかったことばっかり覚えてしまう。トツトツと不器用に話す人は、内容まで誠実に聞こえる。あるいは英語を話していても、日本語英語で一言一言をはっきり言うほうが、アメリカ人を気取って流暢に話すよりも胸にひびく。そこまでわかった上で「下手に話す教育」をやるというのは、とっても頭がいい、と思う。

p70 おっと津田梅子や石井筆子が出てきた。

正直、福祉の仕事って興味があるんだよなぁ。ものを作って売って儲ける、ということに若干むなしさを覚えることもあるのだ・・・。この気持ちはずっと持っていて、いつか何らかの形で実現したいです。

p133経営者は「きらめく旗」を掲げることによって、「コト」を起こして「ヒト」をまとめることができる。きらめく旗とは、「大きな夢や熱い思い、それを実現するための行動指針を誰にでもわかりやすく言語化したもの」。例としては武田信玄の「風林火山」などをあげてます。

p144 Diversityなんていまどきの外来語は使わないけど、雑木林は杉や松だけの人工林より強い、という話が何度も出てくる。根の張り方や枝の伸ばし方、葉の茂り方がいろいろな木が生えているほうが、山は嵐にあっても崩れにくい、といいます。サバンナの動物たちは弱肉強食だと思われてるけど、ライオンに食べられるシマウマも、群れを作ってうまく生き延びて、共存ができている。社会も会社も、すぐれた人だけじゃなくて、いろいろな人がいないとだめだ。

p182 PCなどのアセンブル製品の部品不良が引き起こす問題と品質管理について。部品の一つに不具合が起こることは、ままある。誰が悪いと責めるのでなく、ばらばらに作られた部品が最終製品の段階で「合成の誤謬」を起こさないよう、密接に連携し、共同で責任を負担するべき・・・といいます。私も、それが唯一のほんとうの解決方法じゃないかと思う。

p183 バイオエタノールの問題。トウモロコシが高くなると貧困層が困るだけじゃなくて、地球全体からみて耕地のバランスも崩れる。クリーンエネルギーだともてはやしても、地球全体で「合成の誤謬」が起こりうる。・・・この問題に関しても、常盤節というか、著者らしい切り口なのが一貫してていいと思います。

この本を読みながら、心の中に、小学生の夏休みに行った両親の実家の里山の風景が浮かんできて、さわやかな気持ちになりました。青い半ズボンと白いランニングで、虫取り網を持って顔中で笑っている、小学生の常盤少年の姿も見えてきます。「こどもの心を忘れるな」ということをあまりことさら強調しないのですが(p47あたりでは触れてますね)、少年のままの心を持ち続けて会社員人生を生き抜き、会長を務めて退いてもなお持ち続けている、しぶとさと自然さがまぶしいです。

やっぱり、「迷ったら自然にまかせる」という考えは正しいと思う。仕事や人間関係や、いろいろなことに迷ったり悩んだりしたときは、心を開いて自然の流れに耳をすませよう、と思います。