久生十蘭「久生十蘭短篇集」803冊目

どこで見たのか忘れたけど、久生十蘭という作家が1955年にこの本に含まれる短編「母子像」(の英訳)でニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの「世界短編コンテスト」の一位を取ったというので借りてみた。読み始めてみると、海外を意識したような明治時代っぽい、あるいは初期の村上春樹みたいな文章で、しかも英語じゃなくてフランス語が普通に入ってくる。フランスで暮らしていたりもする。奇矯な大金持ちや不幸な子どもといった、典型的な「日常」とは違うシチュエーションの物語が多い。

ロアルド・ダールの短編集みたい、って最初に思った。すごく知的でシニカル。「斜に構えていながら最後に希望をもたらす」ということはなくて、最後にどんでん返しがあれば、それは”最悪から地獄へ”みたいなネガティブな転回か、すとんとオチなく終わるというはぐらかし方のどちらか。すごく、読みづらい。毎回「ええ~~」とちょっと不満を抱えて次を読む。不幸でも変化なしでもいいから、なにかもう少し、分からせてほしい。

私は常ひごろ、わかりやすいハッピーエンドやお涙ちょうだいのストーリーを批判ばかりしてるけど、この短篇集の前ではまったくありきたりのドラマ好きな現代人だ。なんか面食らう。まるで南米やアフリカや東ヨーロッパのような、行ったことのない遠くの国のノーベル賞受賞作家の作品みたいに、取りつく島がない。

などなど、何かをつかもうとしながら感度の悪い自分にがっかりしただけの読書体験となりました。この作家に関する文章や番組を見かけたら見てみて、少しでも洞察が深められたらという気がしています。