角幡唯介「空白の五マイル」816冊目

同じタイトルでこれがミステリーだったら、苦労を重ねて命を危険にさらしながら「空白の五マイル」の全エリアを最初に踏破した冒険者が、最後に桃源郷のような光景を目の当たりにするような絶頂感を味わって終わるのでしょう。最近気軽にミステリーも何冊か読んでるので、なんとなくそういう「スカッとする感じ」をイメージしながら読んでしまいました。

現実は「苦行」…もちろんご本人には、究極まで自分を追い込む高揚感や達成感があるわけで、のんびり暮らしてる私には想像もつかないような高みに達しているのでしょう。死が常にほんの5歩先で待ち構えているような緊張感に圧倒されました。

そして、読み通してもスカッとする場面はどこにもありません。現地のようす、彼の「到達地点」を伝える写真は、何が写っているかわかりづらい巻頭の1枚だけ。著者の大学の先輩にあたる学生が、テレビの取材で現地へ行って事故にあったことが本の中ほどまで詳しく書かれていて、探検の過酷さばかりが印象に残ります。

探検家という仕事・・・って何なんだろう。究極の、目先の利益から最も遠い”遊び”のような気もします。逆に、小さな山に一人で入って歩き回ることも、私なら十分に「探検」。怖いし経験の浅い自分の場合危険もある。でも多分驚きもある。高尾山に登ることも、ツアーでアフリカに行くことも、私にとっては冒険だった。新しい仕事を始めるのもすごく勇気が必要だった。安全領域の大きさや範囲、挑戦可能な領域の大きさや範囲、その外にある不可能地域・・・それぞれの大きさは人によって違う。この著者は地球のほとんどが「挑戦可能領域」で、「不可能地域」は政治的・物理的に人間には到達不可能なところだけなんじゃないだろうか。求め続けることは欲望に忠実に生きることだけど、それを「生命力」って呼ぶのかもしれません。それが生きるエネルギー。人間って、食べるものやいろいろなものからの影響を受けても、自分の内側から出てくるそういうパワーが根源の活力なのかもしれない、と最近思うんですよね・・・。