この本って・・・本物の暖炉がある、昔ながらの居心地のいいホテルの談話室みたいだ。ホテルの経営者と職員とで長年丁寧にメンテしてきて、そういうのが好きなお客さんしか来ない。そこに集う人たちには暗黙の了解があって、ずっと守られている暖かい親密さがある。今はもうあまり残ってないような場所。
この本にはミステリーを徹底的に読み込んできた目利きの編者がいて、コンピューターや新素材に頼らない手作りの技巧と古今東西の知恵者たちの発明が詰まってる。なんともいえず、懐かしいこの手触り。初めてミステリーを読み始めた10代のころに、お小遣いを持って本屋の文庫本の棚に今月買う本を探してた、真剣なあの気持ち。
ミステリーの中の世界には、冷静で熱い名探偵と、人間の愛憎や歴史と、人が作った複雑な仕組みやはかりごとがあって、息が止まるような血の匂いと恐怖があった。最近の小説、ドラマや映画を見ても、その頃感じた気持ちが蘇らないのは、今はビジュアルなショックとか意外性を追い求めなければならない時代だからかな。ミステリー自体の味わいが確かに違ってきてると、この本を読んで感じる。
・・・ほんとに、子どもの頃に読んだミステリーの怖さとワクワク感、大人の世界への憧れ、ああいう気持ちが、この本を読んでる間はよみがえってきました。
この本って1800年代の大昔のミステリーやほぼ未発表の作品も収録していて、編者がいなければ出会えなかったものばかり。今の自分には奇跡みたいな本です。全部読み終わってしまったのが残念なくらい。これを全集化して永遠に出し続けてほしいなぁ・・・