木下洋一「入管ブラックボックス」990冊目

渋谷区の図書館の入荷を待ってすぐに予約を入れたけど、なかなか順番が回ってきません。一方たまたま立ち寄った新宿区の図書館で、「新着図書」コーナーに誰の予約も入っていないこの本があったので、すぐに借りてきました。あとで調べてみたら、渋谷区の所蔵数1冊に対して新宿区4冊所蔵なのでした。そういうことか。

このテーマ、ずっと知りたかったことでした。入管の人たちはどうして、外国から来た人たちにあんなにひどいことをするんだろう。本当にそんな、映画に出てくる悪い看守みたいな人たちが、日々意地悪ばかりしてる場所が、日本にあるんだろうか。

この本を読んで、どういうことなのか少しわかった気がします。

一度品川の入管に行って、中で過ごしている方々に面会させていただいたことがあります。彼らには時間だけはたくさんあって、私にゆっくり身の上話をしてくださったけど、どの方も精神的に追い詰められていて、何か外に出る方法はないかと訊いてくる。でも私の知識のほうがゼロに近くて、彼ら自身にも遠く及ばない。強い無力感に圧倒されて帰ったのを覚えています。

そこに行って知りたかったのは、中で暮らす人々だけではなくて、「入管という場所とそこで働く人々」もです。そこは、殺風景だけど冷酷さまでは感じない場所で、そこで働く人たちも、事務的ではあるけど冷淡でも冷酷でもない、自分たちと違わない、普通の人たちだった。だからこそ、ここを改革するのはすごく難しい、と感じました。一部の暴力的な職員が規律を破って暴力を働いてるのなら、その人たちを入れ替えればすぐに改善できそうだけど、普通の人たちが、これで良いと思って真面目に仕事をした結果がこうだから、多分そこの職業倫理そのものにひずみがあって、それを矯正するのは多分、組織でいえば社長が気づいて反省することが必要だから。

職員の方々も、倫理観や職業観はそれぞれ微妙に違うだろう。私がかつて過ごしたどの大企業とも同じように。だから、見た目同じようにおだやかにしていても、「これじゃまだ足りない」と思っている人もいれば、「もうこんなの耐えられない、いつここを辞めよう」と思っている人もいるはず。ここ数年で、ニュースで自分の職場が叩かれるのを見ていない人はいないだろうから、辞める人も増えてるんじゃないだろうか。・・・そんなことを思っていたので、この本は「やっぱり出たか、とうとう出たか」「待ってました」という気持ちです。逃げ出さずにいられない人がいてもおかしくないくらい、今のこの国の悪者たたきも強烈だから。。。

で、この本を読めたおかげで、過去にどういう経緯があって今の入管がこういうあり方になっているかが少しはわかったし、改善が難しい状況もやっと見えてきました。著者の勇気と努力に敬意を表したいです。ここからがやっと第一歩なのかもしれません。私には彼らの改善を主導するのは無理だけど、状況を知っていれば、改善できそうな人が現れたときに、寄付したり投票したりすることならできる。だから、当事者が140文字より長い文章で詳しく書いたものを読む努力は、みんな続けたほうがいいと思うんだ。

私は立派じゃないふつうの人間で、よく怠けるし失言することもあるけど、あのときの無力感を忘れずに、何かできることがあるときはやるようにしてる。もっとたくさんの人が、ネットで悪人を叩くときの怒りを「なにかすること」の方にもう少し振り向けることができたら、少しは状況を変えられるんじゃないか・・・と思っています。