テッド・チャン「息吹」1047冊目

この人の文章は、ムダひとつないのに、密度がすごくて、読み進めるのにエネルギーが要る。スムーズに読めてわかりやすいのに、立ち止まって味わってから先に進みたくなる。寡作だから、あわてて読むのが勿体ない、という気持ちもあるかな。

コンピューターや宇宙が登場するとはかぎらないのに、まさしくサイエンス・フィクションである、という点も一貫してるけど、常に中心にあるのは「人間とは」、だと思う。カズオ・イシグロとかもそうだけど、科学を使ったりしてエクストリームな状態にした「場」に人間を放り込むと、何を考えてどう行動するか、という神様の箱庭のような小説なんですよね。めちゃくちゃ頭がいい、考え抜く脳の体力がすごい、だけでなく、同じ倫理観がどの作品をも貫いている、という点もすごい。何か、宗教みたいな確かなものに出会って、寄りかかっていられるような落ち着きが、心の中に生まれる。

映画「メッセージ」が好きで、その原作「あなたの人生の物語」も大好きで、最初の作品集は英語版を買ってみたけど全然読み進めなかった・・・。翻訳者も書いてるけど、15年以内に次の作品集が読めるといいな。私まだ生きてるかな・・・。