町山智浩「トラウマ恋愛映画入門」542冊目

恐怖映画中心の「トラウマ映画館」の、違う趣向の続編。

この本を読んだあと、「アニー・ホール」をまた見たくなりました。映画に興味が出てきた20代前半に見たんだと思う、多分荻窪のぼろアパートに住んで近所の貸しビデオ屋に日参して、店にあるVHS全部見てしまうんじゃないかというくらい映画もアニメも見まくってた頃。ダイアン・キートンが素敵で、とてもロマンチックな気持ちになったことを覚えてます。この本のほうは恐怖映画のほうの本と違って、見たことがある映画が多い。(だってあっちは日本で公開されてないものが多いし)それぞれの映画のページでは、監督や俳優だけでなく脚本、原作、撮影、その映画がほかの映画に与えた影響、その映画がどういった映画や小説に影響を受けたか、などについても深堀りしていて、読み応えがありました。

だって映画って、総合芸術というけど、芸術というだけでなく、作られた時代のその国の価値観を如実に表しているし、行ったことのない町、一生訪れることのない国の生活にそのまま入っていけるものです。映画を深く見ることは海外旅行に行くことに近い、と私は思ってますから。

だから良くできた恋愛映画を見ると、自分もその中にいる気持ちになれるし、映画の中の彼らの表情や行動をもたらしたのがどんな事情なのか、とても興味深く読めます。自分が好きな映画だとなおさらです。「アニー・ホール」「エターナル・サンシャイン」「ラスト、コーション」…。大勢の映画好きがベタ褒めするフェリーニの「道」を批判的に見てるのもよかった(私と感覚が近いという意味で)。

引き続き、彼の著作を読んでみます。

トラウマ恋愛映画入門 (集英社文庫)

トラウマ恋愛映画入門 (集英社文庫)

 

 

 

 

ジム・ロジャーズ「冒険投資家ジム・ロジャーズのストリート・スマート」541冊目

この人の本は、何冊読んでも痛快です。

この本は彼の個別の冒険でなく、いままでの人生総括なので、数冊読んだ後だと何度か見たことのあるエピソードもあります。

彼は頭脳の明晰さもすごいけど、ためらわずに自分を通せる強さ、明るさ、自己肯定感がすごいなぁ。アメリカ政府だろうがどこの国の官僚だろうが、実名で歯に衣着せぬ批判がたくさん出てきます。すべて冷静かつユーモラスで、鋭い。

私みたいに、自分を批判する人たちともできれば仲良くなりたいなどと甘いことを考えて、結局ずるずるになってしまうものとは、なんか根本的に出来が違うんだろうな…。

ジム・ロジャーズ先生、これからも師と仰がせていただきます。 

 

山口雅也「日本殺人事件」540冊目

面白かった。この人の小説は、登場人物がみんな、生き生きしてる、を超えてパフォーマンスが派手!だから舞台のお芝居を見てるような感じがします。饒舌でコミカルで、原色やスパンコールの衣装を着た人たちが飛んだり跳ねたりする、エネルギー量の大きい劇団の舞台。あえて時代考証をせず、カオスのもたらす祝祭をそこに作り出す。…実際、舞台化してもきっと面白いだろうな。

殺人のしかたが力業なので、再現性はとても低いと思うけど、謎に破綻を感じさせないし、パラレルワールドものとして、もっと読みたいと思わせます。…というわけで、第二弾もさっそく読もうと思います!

日本殺人事件 (創元推理文庫)

日本殺人事件 (創元推理文庫)

 

 

山口雅也「謎の謎その他の謎」539冊目

ことば遊びが好きですよね、この方。タイトルは「リドルのミステリーその他のミステリー」とフリガナが振られています。

だいぶ前に「生ける屍の死」や「キッド・ピストルズ」を何冊か読んで面白さに感動したのですが、心と時間の余裕がないとミステリーが読めないほうなので、久々にヒマができたところで数冊読んでみることにしました。

この本も期待通りに面白かったんだけど、謎だけじゃなくて、答えが知りたい!知りたい!(←著者の思うツボ)著者自身がスフィンクスですよね…。なんとも悔しいような気持ちいいような。

そして、決して与えられることのない答を求めてもう一冊、彼の著書を手に取る私なのでした。まんまと術中にはまってるな…。 

謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) (ミステリ・ワールド)

謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル) (ミステリ・ワールド)

 

 

町山智浩「トラウマ映画館」538冊目

これ、ずーーっと読もうと思ってたんですよ。満を持して?やっと読んでみましたが、面白いのなんの。取り上げられた映画の中で見たことがあるのは「バニーレークは行方不明」と「早春」だけだったけど、その2つとも一生忘れられない不可思議さと美しさのある佳作で、他の作品にも興味が抑えられません。

といっても、「トラウマ映画館」ってくらいなので、どれも暴力的で残酷な描写が半端なさそうで、見るのにかなり勇気が要ります。一杯ひっかけないと見られません、でも酔って見たりしたらますますトラウマが深くなりそうでもあり…。

この著者の書いたものをあちこちで読む機会が今までにもありましたが、共感するものあり、しないものもあり。でもこの本に関しては100%尊敬の念を抱きました。これだけの映画を幼いころから見つくしていることもすごいけど、多分全部記録を取ってたんでしょうね、いつ何を見たとか、そのときどんな恐怖を味わったかなど克明に描写までしてあるのも凄い。そして、その映画の原作が書かれた背景や、映画のほうの監督が同時代のどの映画に影響を受けたかなども、深く深く掘り下げて書いていて、もうこれは「まいりました」というしかありません。

嬉しいことに、この本が発売された2011年には入手困難だった映画が、この本のおかげか?今はDVDで出直しているものも多く、けっこうな割合で見られそうです。

見たい…でも怖い…でもやっぱり見たい…

あまり血みどろではなさそうなものから、何本か見てみようと思います。

あとオマケですが、この本で取り上げられている「早春」を監督したイエジー・スコリモフスキーが、出版後の2015年に、これまたトラウマになりそうな佳作「11ミニッツ」を監督していて、トラウマ映画の歴史は連綿と作られ続けているという事実も嬉しいですね。

トラウマ映画館 (集英社文庫)

トラウマ映画館 (集英社文庫)

 

 

えらいてんちょう「ビジネスで勝つネットゲリラ戦術 詳説」537冊目

この人の本、意外と読んでる。面白いし、しょぼい起業ってすごく共感できます。私も自分で何かやってみたいと思ったことは何度もあったけど、まずオフィスはどうとか、登記だとか税務だとか、起業に関係したサービスでお金を取ろうとする人たちが群がってきて、とてもそんなの払いながら利益なんて出せないと思って、結局サラリーマンのまま今に至っています。

この本の中でえらてんさんは「N国党」をすでにネットゲリラ戦術の典型例として紹介しています。まさに著者のイメージするビジネス?を実現しているけど、近親憎悪的なものもあるのかな。私から見ても「エデン」は勝手に楽しそうにやってて問題ないけど「N国党」はかなりマズイので一般的な感覚だと思うけど。

バブルの頃でなく今が私の20代だったらな…。

「エデン」行ってみたいけどオバサンは浮くかな…。

というのが目下の懸念です。

デービッド・アトキンソン「世界一訪れたい日本のつくりかた」536冊目

なるほど、これがIR計画の出どころか…。

これを機に過去のこの人の本の感想を見直してみたら、「よく言ってくれた!」と強く共感する一方で、「人はそう簡単に変わらないよー」「日本のこじんまりした宿にも、至れり尽くせりのいい宿があるのにー」など否定的?なことも書いていました。ここまで5冊読むと、以前の本で語り切れなかった彼の考えも見えてきて、今は納得できるように思います。

日本のいい宿ランキングで上位を占めるのは、私も知らない宿ばかりだった。有名な大ホテルではないけど、しっかりサービスしているところがちゃんと外国からのお客さんに受け止められてたみたい。日本の将来(の歳入)を救うために、生まれる子供を増やすことはあきらめて、移民も無理だと考えて、観光収入に狙いを定めたのは合っている気もするけど、「ほかにはないのか?」という点を検討した形跡はないので、もしかしたら観光でなくてもよいのかもしれません。彼は分析のプロだけどストラテジストでもプランナーでもない。

そして、観光の中で「富裕層を狙う」のは賛成。まずパイオニアになりたい富裕層を誘致して、観光地のステータスを上げれば、それよりちょっと安い施設もどんどん建って行って、人がたくさん行くようになって、観光地が盛り上がるという仕組み。確実にお金を落とす人を連れてきて、まずその人たちのお金で観光地を整備する。正しい。

それはカジノでなければならないのか?できれば避けたいとみんな思ってるけど、そうしないとならないほど日本の状況はひっ迫してるってことなのかも、少なくとも彼の考えでは。「IR」って例えばどういうものだろうと思ってたけど、彼が例に引いたのはシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズだった。この間ちょうど行ってきたんだけど、ホテルが大きくて立派なだけじゃなくて有料の植物園があったり、ショッピングモールもお手頃なフードコートもあったりして、あらゆる階層の人がみんな恩恵にあずかれるような施設でした。ホテルも、高級ではあるけどバカ高いわけじゃないらしい。確かに地下にカジノもあったけど、これなら日本に作ってもらってもそれほど問題はないような気もします。

既存の観光地の整備については、いちいちごもっともでした。事前知識ゼロで来てくれる人たちのことを、今まではちっとも考えてこなかったから、もっとよくわかる看板、詳しいパンフレットを、ネイティブの監修を入れて作れと。日本人の私が行ってもわからないことだらけなので、そうだろうなと思います。もしも彼の考える観光地整備を事業化するなら、雇うべきは「ネイティブのライター」で、日本側は情報を提供するにとどめるのがベストといいます。海外のYouTubersにも、彼らを束ねている事務所とかあるのかな。難しそうだけど、わかりやすく親切に整備された美しい観光地にたくさん人が来てくれて、感動して帰ってくれたらいいな…。