ケン・リュウ「紙の動物園」578冊目

ほとんどがいわゆる未来SFの短編集「母の記憶に」を先に読んでしまったから、というのもあるけど、賞をそうなめにした短編「紙の動物園」に機械もソフトウェアも出てこないのが意外でした。SFの「サイエンス」の部分がなくて、ファンタジックで情緒的な美しい作品。民話、昔話のたぐいといってもいいんじゃないかな?

もののあはれ」も、日本人ってこんなに素晴らしい民族だっけと照れるくらい、しっとりとした味わいのある、しかし宇宙SF。

この2編をはじめとする名作揃いでした。ほんとに原題中国系SF作家、というかあの3人はすごい。人間への深い洞察、愛と憎しみへの理解と共感、現存するテクノロジーと開発されつつある未来のテクノロジーの把握がすごく高いレベルにあって、驚きます。彼ら相当知能指数が高くて作家じゃなくても一流の仕事ができる人たちですね。日本のそういう人たちは何をしてるんだろう?過去に傷ついたことの自己憐憫におぼれる中二作品(そういうのも実は好きでかなり読んだり映画見たりしてるけどさ)のまま、終わりそうになってないか?

ロシアや南米の「辺境」の作品の面白さにしばらく夢中になってたけど、在外チャイニーズもある意味、作家として注目されてこなかった辺境の人たちなのかも。まだまだ夢中になって読んでいきたいと思います。

しかし、それに匹敵するレベルの映画作品はあまり見ない気がするな。すごい人が出てきてくれたらいいのに。 

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
 

 

チャディー・メン・タン「JOY オンデマンド」577冊目

マインドフルネスについて何冊か読んでるんだけど、瞑想を「ジョイ・オン・デマンド」って表現するのって軽くて面白い。深遠で難しそうな顔をしなくてもいい、瞑想を楽しんでいいんだよ、っていう著者の意図が伝わってきます。

瞑想はインドの昔の知恵だと思ってたけど、この本では仏教由来のものとして(あるいは仏教が興ったあとでどう瞑想が用いられてきたか)語られます。

簡単そうに見えるこの本ですが、著者は探求心が強くてどんどん仏教聖典をさかのぼっていき、日本の本もインドの本も、もう広く深く学んでいきます。真面目に読んでると、ああやっぱり瞑想って難しいんだ、深いんだ…としり込みしてしまいそうですが、実際はやってみて楽しさを知ることが大事なんでしょうね。もっともっと先に行きたくなるかどうかは、それぞれの人で違うし、違っていい。

しかし、こういう「マインドフルネスとは」ばかり読んでてもできるようにはならないので、入口のHow to本も読んでみよう。 

たった一呼吸から幸せになるマインドフルネス JOY ON DEMAND

たった一呼吸から幸せになるマインドフルネス JOY ON DEMAND

 

 

ケン・リュウ「母の記憶に」576冊目

面白かった。テッド・チャンを読み始めて(実はまだ読み終わってない)感動して、現代中国SFすごいぜ!と聞いたのでこっちも読んでみたわけですが、ほんと層が厚いですね。ケン・リュウも達者な宇宙SFを書くけど、彼は中国生まれということもあってか、三国志をモチーフに、ゴールド・ラッシュでアメリカに渡ってきた中国人とアメリカ人少女との交流を描いたりもする。時空を超えた書きっぷり。

昔、中国に憧れたときがありました。中国の昔の偉人たちの深みに。仕事で知り合った同僚たちの中には、すごく優秀で人格も素晴らしい人が何人もいたけど、流れてくるニュースを見てここ何十年も気持ちが離れてたけど、またあの国の文化や人々を見直すきっかけになるかもしれません。

日本で大ヒットしているものの中には、自分の殻にこもって出て行かないものがけっこうあると思ってます。小説にしてもマンガにしてもアニメにしても。優れてる点は認めるけど、外に出て行かないとわからない大事なこともあるから。

ここしばらく図書館が完全休業だったけど、やっと稼働を始めてくれたので、予約してた本が次々に出てきました。どんどん読まなきゃ!

 

スティーヴン・マーフィ重松「スタンフォード大学マインドフルネス教室」575冊目

マインドフルネスって何?ということを基本から知りたいと思って、借りてみました。日本の血を引く著者が誠実に著した良い本です。

マインドフルネスってのは瞑想の名前じゃなくて、考え方みたいなものなんだな。誰も権利を持つわけではなく、会員にならないといけないものでもない。そういうものって普遍的で良いけどいろんな理解をする人が現れて、いろんな流派が生まれそうな気もします。まずはできるだけ源流に近いところに触れて、本質を理解したかったのですが、この本でよかったかな。

さて、やっぱり瞑想に興味があるのでマインドフルネス瞑想に特化した本も借りてみようと思います。

 

江川紹子「「カルト」はすぐ隣に」574冊目

多分何かで紹介されてたから借りようと思ったのだけど、読んでみたらなんとも寝覚めが悪いほど怖い本でした。

「本当の自分」とか「絶対正義」や「絶対真理」を追究したいって、若いころはずっと思ってました、私も。勉強は嫌いじゃなくて、むしろ人付き合いが苦手で、どうして自分以外のひとたちはみんないい加減なんだろうって思ったりしてた。何度も裏切られた気になって、繰り返し繰り返し傷つくうちにやっと、人間ってもともとそういうもんなんだってわかってきて、争いごとも殺人も、愛がある限りなくならないって今ならわかる。でも心の奥に、全員が清純で澄み切った心の人ばかりで、誰も傷つかない天国がどこかにあるといいと思ってる。家で猫と遊んでる時が一番安心できて幸せ。私がカルトに走らないのは、カルトも全部怪しくて信用ならないと最初から疑ってかかってきたからだ。それだけ。違いは、自分で考えることを止められるかどうか。

自分で考えることをやめる「能力」。それって割と日常生活では重宝されてる。生徒がいちいち先生に食って掛かってたら授業は終わらない。夫と妻が毎日いろんなことの線引きを厳密にやってたらすぐにくたびれてしまう。

だから、大きい黒い網にからめとられてしまうかどうかは、本当に微妙。

私も、あえて人とつながろうとして、ここ数年はサークルみたいなものに入ったりして、それなりに重用されたこともあったけど、うさん臭く感じてるからか、どこか入りきれないでいると、急に「上の人」って攻撃に走るんだ。それでまた何度も痛い目にあったけど、それでもやってみて良かった。財産をとられたり人を攻撃したりするところに行かなければ、取り返しがつくうちに傷つくのは必要なことなのかもしれないと、今は思います。

たくさんの人に会って真剣に話し合って、傷ついて、それでも真実を見抜く気持ちは忘れないで…そう思います。

 

ジム・ロジャーズ「危機の時代」573冊目

不安ですよ、そりゃ。コロナの波が去りかけたと思ったら戻ってきて。巣ごもりを始めてから丸2か月以上。出勤は始まったけど在宅もある程度続ける。もしまた新規感染者が1日に100人も見つかるようになったら、また全部飲食店を閉めさせるのか?こんな状況なのに、なぜ株がこんなに高いの?

株でも債券でも金でも、「安くなったら買い、高くなったら売る」のが鉄則だとジム・ロジャーズ氏はいつも言います。いつが「安くなったとき」で、いつが「高くなったとき」かは、自分の得意分野でないとわからないから、よく知っている分野の株を買え、とも。いずれも基本中の基本で、株に複雑なルールがあるわけじゃないということです。あとは業界や会社の研究にどれくらい時間と労力を割くか。ぶっちゃけ、インサイダーの問題がなければ自分が勤めてる会社の株を買うのが一番いいわけで、それに匹敵するくらい詳しい分野を作れば、恐れずに大きな額の取引に飛び込めるのかもしれません。

ロジャーズ氏は文中(実際はインタビューをまとめたものらしいけど)で繰り返し、日本に今住んでいる人は外国へ出ろ、現在の株高はリーマン・ショックを超える、長期にわたる大暴落の兆候だ、と脅します。そうかもしれない、という気がしてきます。

こんな時期に、お金がいくら手元にあれば安心なんだろう?あまり使わなければ、なくても困らないのかな。旅行をしなければお金は残せる。ぜいたくしないで、入ってくるお金を少しずつ残せれば…。(仕事が続けられれば、だけど)

ともかくわずかな資産をすこしでも安全なところに移して、長い嵐が過ぎるのを待つしかないよな…。

喜多あおい「プロフェッショナルの情報術」572冊目

テレビ番組の制作に欠かせない、影のキーパーソンである「リサーチャー」の草分け、喜多あおいさんがご自身のすごすぎる情報収集・整理・提案の方法を、惜しげもなく書いてくれたのがこの本。すごいノウハウがたくさん詰まってるのに、全部書いてあるのに、実際にやろうとすると超大変。だってめちゃくちゃ手間をかけているんですもん。しかも超絶ノウハウのある人が。これを一般庶民の私がまねしても、たぶん1%くらいしか実現できないだろうな…と思いますが、でも、何かを「調べる」ときにこのくらいの努力は必要なんだな、ということを思い知りました。

すごく面白い本です。テレビの裏側のすさまじさも垣間見ることができました。