吉永小百合(取材・構成 立花珠樹)「私が愛した映画たち」691冊目

日本の女優の大本命、吉永小百合がとうとう自分の作品を振り返る本を出してくれました。立花先生、大活躍。

吉永小百合って人は若い頃のチャキチャキした役柄のとおりの、竹を割ったような性格の行動派だな、という印象ですね。いくつになっても若々しく明るい。もし女優にならなくても、きっとその場所で太陽みたいにまわりを明るくしてきたんだろうなー。

個別の作品については、まだ見ていないものも多いのですが、「北のカナリアたち」「北の桜守」「外科室」「華の乱」「愛と死の記録」とか、見てみたくなりました。

私が愛した映画たち (集英社新書)

私が愛した映画たち (集英社新書)

 

 

宇佐美りん「推し、燃ゆ」690冊目

直近の芥川賞受賞作品。図書館で500人待ちの末やっと手元に届きました。

まず、この本は抜群に面白かった。アイドルって言葉は今はもう使われないのね。「推し」のことを名前で呼ぶことも少なくて、ファン本人も「推し」と呼び合っている。自分の「推し」にヤケに入れ込んでる女子高生の、ブログへの書き込みやコメントも含めて、「推し」を中心とした生活が鮮明に描かれます。

文章はとても「キレイ」だと感じました。かっこよくいうと流麗。技巧があると感じさせない。技巧など駆使していないのかもしれない。かといって”感性のままに流れる”みたいなふわっとした感じもない、地に足が着いていて観察眼は落ち着いている。で、結果としてすごく面白い。すごいなぁ、この人。どうすごいのか、よく言い表せないけどすごい。

あくまでも主人公の女の子(「あたし」)がその周囲を見回して喋っているだけなんだけど、だんだん彼女の置かれた状況、彼女自身のことがうすうすわかってくる。意外と、本当に、苦しい。手詰まりになっていく。どうしようもないかも、と思ったところで「推し」に転機が起こる。彼女にもそれが転機となるのかもしれない、ならないのかもしれない。結論や結末を語ることはしないまま、作者は行ってしまうんだけど、そこまでの面白さでなんだかすごい満足感を得る。そんな感じ。

この人はきっと、これからもすごく面白い本を書き続けるんじゃないかな。楽しみに読んでいきたいと思います。

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

 

萩尾望都「半神」689冊目

また萩尾望都の単行本を買ってしまった。この短編集は、どうも過去にまるごと読んだ記憶がある。それにしても面白いし美しい。少女まんがにしかない「夢」がある。うっとりした感じ。「去年マリエンバートで」みたいな、ゆったりとして夢見るようなトーン。これがなんとも好きなんだ。

タイトル作の「半神」はまさに、エドガー・アラン・ポーの歴史的な短編みたいな名作。ほかの短編も、どうも以前にも読んだことがあるな…。読み返してもまたこの世界に浸れる。SF好きな人も、少女まんが好きな人も、一度は読んでおくべきじゃないかな?と思います!

半神 (小学館文庫)

半神 (小学館文庫)

 

 

村田喜代子「人の樹」688冊目

敬愛する村田喜代子の本、しばらく追っかけていなかったうちにたくさん出版されてました。順次、読んでいきます。

この本は、かなり異色。タイトル通りともいえるのですが、1つ1つの短編で、樹木を人格のあるもののように描いています。たとえば「あたしはニーム。センダン科の木でハーブの一種よ」。現存する作家のなかで随一の想像力をもつと私は思っていますが、林が夜は歩くとか、人間の姿になって世話になった人の葬儀に出るとか、死んだ虫たちが樹皮にしばらくとりついているとか、なんだか不思議で豊かな世界です。

すごく地味で小さな作品集だけど、里山とふもとの村をまるごと包み込むような、時空を超えた温かさがあって。

でも私は、女の子の一人称より、昔話のような口調で物語を語るときが一番好きかも。

人の樹

人の樹

 

 

モハメド・オマル・アブディン「わが盲想」687冊目

高野秀行の本をたくさん読んでたら、この人のことが出てきて、興味がわいたので読んでみました。スーダンの視覚障碍者で、日本の鍼灸学校に留学してきた後、コンピューターや政治を学んで、東京外大の助教になったらしい。長年学生でい続けたことのうしろめたさも書いてるけど、真剣な勉強を続けられるエネルギーを尊敬します。

アブディンさんは高野さんと違って、放浪しつづける感じじゃないなぁ。拠点を定めて家族を増やして、面白いけどそれより実は真面目なんじゃないかという印象。今ネットで調べてみたら、学習院大学政治学科で特別客員教授をしているとのこと。めっちゃ頭いいんだなぁ。ていうかYouTubeで彼の講演を見たら、日本人かと思うくらい何の違和感もない話し方。なんか愛嬌もあって人に好かれそう。

いろんな人がいていい、いろんな人がいたほうがいい、というのが私の考えなので、一人でこんなにダイバーシティを広げてくれる人は大いに賛成、というか、肯定、応援したいです。あまりこういうエッセイは書いてないようだけど、続編お待ちしてます!

([も]4-1)わが盲想 (ポプラ文庫)
 

 

三島由紀夫「金閣寺」686冊目

最初に読んだのがいつかなんて思い出せないくらい昔だけど、「100分de名著」に刺激されて再読。本より最近みた「炎上」とか「五番町夕霧楼」(佐久間良子松坂慶子も)の印象のほうが強い。

人が自分の勤務先の、しかも、貴重で美しく古くて大事な建物を焼くという心理は、単純な「社会への恨み」ではない気がする。劇場的犯罪だし、複雑で深く偏執狂的な長年の葛藤があったんじゃないかと思うにつけ、三島由紀夫版のほうをイメージしてしまいます。

三島由紀夫の人となりは「なんじゃこいつは」と思っていて、身近にいたら多分苦手だったと思う割に書いたものは高く評価してきた私ですが、この本はめんどくささが勝ってしまいました。「豊饒の海」が最高傑作だと思ってるんだけど、あの作品には主要人物自身の生死と愛憎が関わっているから、私には理解しやすい。吃音や醜さの自覚、つまり過剰な自意識だけが知的に空回りしつづけるのを1冊読み切るのは、けっこうしんどかったです。三島由紀夫のこの作品が一番好きな人とは気が合わないだろうなぁ。だから平野啓一郎の本はあまりピンとこないのか。ちなみに番組で朗読をやってるのが山田裕貴ってのが、なぜかは説明できないけど、恐ろしくぴったりだなと思う!

金閣寺 (新潮文庫)

金閣寺 (新潮文庫)

 

 

萩尾望都「バルバラ異界」683~685冊目

<ネタバレあり>

図書館で4か月順番を待ったけど、まったく順番が進まないのでとうとう買いました。複雑かつ広がりのある、SFでありながら少女まんがの美とロマンを備えた名作でした。 

去年マリエンバートで はもちろんのこと、惑星ソラリスと、ミッドサマーと思い出す映画がたくさんあって、言ってしまえば「盛り盛り」だ。それから、結末に向けてすごく大きな動き、天地がひっくり返るようなことが起こるんだけど、それについては科学的っぽい説明が少なくて、気持ちの上で持っていかれる感じの構成になってる。それが少女まんが的なのかもしれない。

この作品に関していえば、「自分たちが誰かの夢なのかもしれない」という、自我や存在意義をつかさどる大前提のゆらぎが、崩れてそのまま大団円に向かうところから、読者自身もグラグラしてくるんだけど、それでいいのだ、と受け入れるしかない。

でも、このモヤっと感が余韻でもあって、自分自身が半ば”青羽”の世界に取り込まれたような状態のままってことなのかも…。

じっくり、浸れました。

バルバラ異界 (1) (小学館文庫 はA 41)

バルバラ異界 (1) (小学館文庫 はA 41)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫
 
バルバラ異界 (2) (小学館文庫 はA 42)

バルバラ異界 (2) (小学館文庫 はA 42)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫
 
バルバラ異界 (3) (小学館文庫 はA 43)

バルバラ異界 (3) (小学館文庫 はA 43)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 2012/01/14
  • メディア: 文庫