ジョン・ガイガー「奇跡の生還へ導く人~極限状況の『サードマン現象』」703冊目

確か高野秀行氏が勧めてたので予約した本。

生死を分ける場面で、姿のない「サードマン」が現れて自分に指示をしてくれたおかげで命拾いをした、などなどの話を集めたものです。合理性の国アメリカっぽくない気がする、あるいみオカルト的、日本でなければアイスランドとかにありそうな逸話が並びます。でも面白い。私もぜひ、なにか困ったときにはサードマンさんに現れてほしい。

サードマンに指示まで受ける人は少ないようで、たいがいのサードマンたちは「ただ寄り添う」。子どもの「空想の友達」と同じものだと考える人もいる。肉体が極限まで追い詰められた時に(海を漂流して体重を何十キロも落とした人もいる)脳で生まれる幻覚だとも。

そもそも、魂って何だろう?っていうことはまるで解明されてない一方で「生まれ変わり」を信じる宗教が世界中で広く信じられている状況で、死によって体から離れた魂がどうやって天国に行ったり別の肉体に入ったりするのかもわかっていないわけなので、「それは亡くなった人の魂である」っていう意見も取り上げてよかったんじゃないかという気がします。はっきりそう主張する科学者はいなかったのかな。(はっきり「魂ではないことを立証する」ことも、どんな科学者にもできてないわけで)

それにしても、一晩で体重が半分になるような強烈な経験をしても、また山に出かけて命を落とす人がいる。スリルって麻薬なんだろうか。私にはそんな危険なところまでたどり着く体力がないから大丈夫…なんて安心したりしないで、低い山でも遭難するらしいので、山へ行くときは気をつけよう…。

 

奥田知志・茂木健一郎「『助けて』と言える国へ」702冊目

2013年発行。最近見た特集番組で奥田知志が取り上げられていて、もっと知りたいと思って借りて、よく見たら対談集だった。茂木健一郎は、以前はTwitterをフォローしてたこともあったけど、その頃彼はなにかに怒ってることが多くて、読むのに疲れて外してしまった。思っていることを発言するのは本人にとっても周りにとっても大事なことだからやめたほうがいいとは思わないけど、私は人が放出した悪意も善意もそのまま受けてしまうほうなので、わりとダメージくらってしまうのだ。(自分に向けられたものでもないのに)

奥田知志は以前、vs村木厚子という組み合わせのパネルディスカッションを聞いたことがあって、大切なこと、必要なことをすごい行動力でどんどんやってる人だと思ってたけど、見れば見るほど、読めば読むほど偉大だなと思う。キリスト教は「人間の選択は悪と悪のどちらを選ぶかだ」と説くとか、人は傷つくことを避けて一人になってしまってはダメで、関わり合うことは絶対に必要だとか、私自身この年になってやっとわかりつつあることをスパッと断言する。本当にその通りなのだ。

東日本大震災のあと、一度だけ「ボランティアツアー」に出かけたことがある。私は体力も知恵も知識もないので、邪魔にならないように、”震災にあうというのは実際どういうことなのか”を勉強させてもらおうと思って。教わろうと思って行ったんだけど、そんなこと仙台の友達には言えなかった。お前なんかに助けてもらうことは何もないよ、って思ってるんだろうなと思った。でも黙って行ってきてよかった。何が出てくるかわからない泥の地面を掘って、雑草を引き抜いていたら、誰かのノートの切れ端や写真もときどき出て来た。東京にもいつか必ず大地震が来る。そのとき私はどの程度備えられるか、どのくらい覚悟を決めていられるか。

ついこの間、家の近所で女性がバス停で住民に殴られて亡くなったっていう事件が起こってすごくショックを受けたんだけど、そこから近所の住民の私たちは何を学んだんだろう。以前行ってたボランティアも、もう1年以上開催されてないので、区の福祉担当の人たちと直接話すことも当分ない。私たちはひきこもりやホームレスの人たちと同じくらい、いまは孤立しがちになってる。

「暗闇を見た人にしか見えない光がある。」これほんと、そうなんですよ。「いじめっ子ほど絆、絆って言いたがる」って誰かのツイートを見たことがある。私もすっかり「絆」って言葉が信用できなくなってしまった。いじめっ子ほど、いじめ撲滅とか言うのだ。

最後の章は奥田氏が一人で書いた文章で、そこだけ読んでもかなり学べることがある。匿名の寄付をするのはいいことだ、でももう一歩踏み出して直接かかわれないか?

…私自身、人から嫌われるのが怖くてどんどん人間関係にしり込みしてしまっているけど、やっと新しい目標もできて、これからはお節介でいこう!と思う。

 

ケン・リュウ「宇宙の春」701冊目

彼自身の短編集、日本版4冊目。ハヤカワのちょい縦長のこの本を読んでるとちょっとワクワクする。

「宇宙の春」

今回も情緒豊かな、SFって感じのしない短編もあります。「マクスウェルの悪魔」は米軍から親の故郷である沖縄へ送られた、日系人女性のお話とか。彼女は”ユタ”の子孫であり、亡き人の魂を扱うことができる。それが利用されるんだけど、結末は…。中国系アメリカ人の彼がどうやってこんなに深い物語を書けるのか、まったくもって凄いとしかいえません。

「ブックセイヴァ」はいわゆる”不適切な表現”を自動で”修正”するツールがもしあったら、というお話。

「思いと祈り」はour thoughts and prayers are with you、という英語のお悔やみの決まり文句をモチーフに、不幸な事件を拡散してしまうことによる二次被害を描いています。

「充実した時間」は、アイロボットじゃなくて「ウィロボット社」のワーカホリックなエンジニアが発明したネズミ型お掃除ロボットと、その後継品として作られた??型ロボットの行く末について。

「灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹」は女性3人がさまざまな動物に変身して縦横無尽に戦うお話。この3人がカッコよくて!

「メッセージ」文明がかつてあったのに滅んでしまった未知の星に足を踏み入れる父子のお話。この暗号、さすがだなぁ。そして切ないストーリーもさすが。

「歴史を終わらせた男」に出てくる「ナイフの哲学」という映画は実在してるみたいですね。過去の日本の軍隊が中国で行ったことを描いた”スプラッター”作品だと書いてるサイトもありました。日本では上映もDVD化もされてないようです。

などなど。ケン・リュウ星新一に見えてきます。改めて星新一ってすごかったよなぁ。アイデアの泉だった。ケン・リュウもこの先できる限り全部読むつもりだけど、星新一も読み直してみようかしら・・・(膨大すぎるかしら)

 

能町みね子「結婚の奴」700冊目

いやー面白かった。かなり赤裸々に(文筆のプロなのでいろんな脚色もあるのでしょうが)書いてあるものを面白がるなんて失礼かなとも思いましたが、物見遊山なだけじゃなくてすごく興味深くて引き込まれて、あっという間に読み終わりました。

結婚ね…。一回したことがありましたが、生活とか結婚に求めるものが一致しないと続かないですね。ほんとに、穏やかに優しく暮らせる「家族」が本当は欲しいんですよ、みんな。でも男女間の恋愛がからむと、永遠に同じだけ愛し合うのってたぶん天文学的確率の低さだし、子どももからむと泥沼でみんな不幸、となりかねません。

自分自身、中くらいに潔癖なところと中くらいにいい加減なところがある(そういう人多いと思うけど)ので、中くらい度合いがかみ合って、かつ寛容な人としか暮らせないだろうなと思う。子どもをもう持たないと思った時点で、一人でどう生きるかだけを考えるようになります。

「勝手に早期退職」をしたときは、定年まで働く人と比べて自分はがんばりきれなかった、心が強くなかった(腰も悪いし)って負けたような気もしてたけど、やっとこの先やることも決められたと考えると、少し早めにスタートが切れてよかったと、やっと思えるようになってきたし。(その決意をぼかして書いてるので、なんのことかわからないと思いますが)

フルタイムの仕事をやめてもう1年半。ずいぶん怠けたわ…幼稚園に入って以来、これほど何のタスクもなく休んだのは初めてですよ。でも会社勤めの人は60年くらいこれ続けるわけだよね。みんなもっとバリエーションがあってもいいはず。

自分に正直に、自由に、一生懸命生きて、側にいてくれる人に感謝して助け合う。その選択肢を私ももう選んじゃったんだな。この先どんな人に出会って助け合うか、誰かと同居するかどうかと関係なく、大切にしていこうと思いました。

 

リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット「ライフシフト 100年時代の人生戦略」699冊目

クローズアップ現代で取り上げられてリンダさんがインタビューに答えていたのが印象的だったので、さっそく読んでみました。

こういう本ってどうしてこう厚いんだろう…。なんとか短くする方法はないんだろうか。アメリカ人って日本の人より一般的に単刀直入で、結論から入るし話が短い、ってイメージがあるんだけど、どうして本になると文字を多用するんだろう、特に社会科学の本は。(一般論です)

この本を読み始めて「?」と思ったのは、寿命が100歳に至る時代に、なるべく長く仕事をするといっても、できることはどんどん狭まっていく。体のあちこちが痛い、目はどんどん悪くなる、歩くのが遅くなる、認知症もいつかはやってきてだんだん進行していく。その部分についてはさらっと触れてるだけなんだけど、気になるのはそこじゃないか。

人間がやっている仕事がほとんどAIにとってかわられるとか、ギグエコノミーとかシェアリングエコノミーとか、だいぶ前に聞いたような話が出てくるし。50年後に105歳の人たちがどうするかという未来の話に関連付けるには古すぎるような。

それにこの本は、高所得の人たちは皆、長時間高度な頭脳労働に従事していると、それが当然の事実のように書いてるけど、それって「ブルシット・ジョブ」で書いてることと逆に近い。高度な頭脳労働と称して、会議のための会議の準備をしたり、口頭で説明すればすむことを社内用なのに立派な資料を作ったりすることに費やしてるっていう事実は、この本では興味を持たれてない。つまり、そういう仕事に、それなりに充実感を見出せるほうの人のために書かれた本だ。

それと、この本は2016年にアメリカで書かれている未来に関する本なのに、LGBTについて一言も触れてないのが、むしろ目立つ。最近の本には必ず、もういいよというくらい書かれてるのに。低所得者層も、層として触れるだけで、この本が対象としているのはよい教育を受けられる現在中流以上の結婚した(あるいは子供を作る長年のパートナーシップを前提とした)男女の未来に限られてる。著者の視野が狭いというより、社会全体の問題は、自分のこととして捉えて研究対象とするほどの強い関心がない、って印象かな。だから、有色人種や現在低所得層の人、LGBTを自認している人や、中流の白人であっても大企業で働いていることが「ブルシット」だと思う人は、他の本も探したほうがいいのかもしれないです。

この本が日本で、「もしドラ」よろしくマンガや解説書まで発行されてるってことは、中流の安定した日本人だという自認の人が多いってことかな。(その通りだと思うけど。) 

 

中井延美「必携!日本語ボランティアの基礎知識」698冊目

おもむろに。老後の海外移住には日本語教師の資格が役立つはずと思い立ち、手始めにこんな本など読んでみることにしました。

ボランティアといっても、日本語を勉強している外国の人に、正しい日本語を、ある程度定番の教え方(外国人向けの文法とか)を用いてわかりやすく正しく教えるのは、かなり難しそう。まったく準備なしでのぞむボランティアに対して、「このくらいは勉強しとこうよ」という点をあげてくれていますが、ボランティアといっても先生がいて足スタントをするわけじゃないので、先生としての準備や覚悟は必要だなと感じました。とうてい、この一冊では十分じゃないです。

私はもう真剣な講座を受講することに決めてしまったけど、この本を読むだけでも、いかに自分(普通の日本人)が日本語を無自覚に使いこなしているのか、突きつけられるようです。背景を知るのはとても面白いけど、奥が深すぎてマスターできる気がしない・・・でもがんばります。

 

高野秀行&角幡唯介「地図のない場所で眠りたい」697冊目

やっぱり面白い。高野秀行の書くものは100%面白い。ときどき腹を抱えて笑える、じわじわと好奇心がたぎってくる、読み終えて充実感と目が開けたような感じがある、など、いろんな意味で面白い。

この本は彼の早稲田大学「探検部」の後輩であり同じくノンフィクション作家である(といっても共通点は少ししかない、と二人とも強調する)角幡唯介の対談集。いかにこの部の部員とOB(共学だしOGもいるんじゃないかと思うけど触れられてない)がバカかということを中心に、彼らが何を面白いと感じ、憑かれたように冒険を続けるかが、いつものように面白く語られています。読んでる私はもう面白くて面白くて。

「ブルシット・ジョブ」の対極だな。なんでみんなもっと、自分の魂が喜ぶようなことをしないんだろう。

と、改めて意を強くして中年以降の冒険人生の計画に着手する私でした。