藤巻健史「藤巻健史の資産運用大全」754冊目

わずか348ページの新書なのに「資産運用大全」って大きく出たなぁと思いつつ、読んでみました。ボリュームは少ないのに、書いてあることが難しくて難しくて…。少しは自分でも運用してて、おずおずと信用取引もFXも経験くらいはしたことがあっても、この本は自分よりずっと上のレベルの人向けという感じ。「先物」「オプション」という言葉が、なんとも怖い。怖がってるから利益が近づいてこないってことだと思うけど…。

難しいと書いたけど、それでもおそらく、先物やオプションについて書いた本としてはまだとっつきやすい方なんだろうな。「20年前から円が暴落すると言い続けているおおかみ少年」のように言われているらしいけど、国家予算は国民が納めた税金でできているという、小学生の社会科で習ったことを私はちゃんと覚えているし、サッチャー政権下で作られた音楽や映画をよく覚えてるので、人気取りのばらまきばかりしてきた日本の将来が心配なのは事実。先送りされている「大爆発」が、いつか東京にも起こるであろう大地震と同じくらい怖くてたまりません。

この本はたぶん、薄いけれど腹落ちして自分でもやれそうなくらい理解すべき金融の事実が書かれているという意味で、「資産運用大全」というタイトルもアリなのかな?いややっぱり大きすぎる?…そんな本でした。

 

中野信子・ヤマザキマリ「生贄探し」753冊目

ああ、いやな本だ(※書かれている事象がね)。

私はつねづね、今の日本に魔女狩りというものがあったら間違いなく焼かれている、なくてよかったと思ってるんだけど、おそらく、中野信子ヤマザキマリも焼かれるほうだと思う。目立たなく愛される、守られる女性を演じることが苦手そうだし、アウェイな場所にもどんどん出かけていきそうだし。この本は血祭にあげられた経験がある人としての視点と、そういう人たちが努力してできる限り鳥のように高い目でさまよえる地上の人々を見下ろした客観的、第三者的な視点をもって、いじめる人たちについて書いた本。でもさ、いじめる人たちが自覚をもってこんな本読むわけないよね。書いてる二人が一番よくそのことをわかっている。彼らは自分こそが被害者であると、多分、一生思い続けるのだ。(これを読んで「お前こそそうだろ」と思う人は、筆者自身に置き換えて読んでもらっても全然かまいません)

多分、今この時に血祭にあげられている人たちに、いじめる奴らの心理について解説して少しでも安心させようという本なんだろうけど、それもなあ。本のどこかにも書いてたけど、いじめは人間の本質的な行いなのでなくなることはないからな。

最近思うのは、何をやられても、相手のことを気の毒に思って仕返しをためらうと、確実につぶされるということだな。同情や共感は加害したい人を引き付ける。

攻撃せずに、でもターゲットにならずにすむ方法を考えてるところ。そのために「人を操る技術」を身に着けようったって難しいんだよ。正攻法しかできない。非暴力不服従。今日も私は立ち直る方法、生き延びる方法を悩み続けています。

 

オムニバス短編集「猫はわかっている」752冊目

タイトル借りしました。うちの三毛は背中を向けてソファの上でごろんと寝てる。

村山由佳「世界を取り戻す」で、猫は生涯に一度だけ人間の言葉を話すと書いています。「じゃあ、そろそろいくワ」といって旅立った灰色のおじいさん猫。うちの子はときどき「ごはん」って言うけど、もっとまじめに話しかけてくる日を覚悟しておこう。

有栖川有栖「女か猫か」は、誰も死なない密室ミステリー。

阿部智里「50万の猫と7センチ」、これは出ていきそうで出ていかなかったりする、野良猫の話。外で生きていた生き物と仲良くなる奇跡。早く家に帰って自分ちの猫を抱きしめよう、という気持ちになる。(目の前で寝てるけど、もし出かけてたら、ということで)

嶋津輝「猫とビデオテープ」は大学のころのビデオテープレンタル屋で知り合った権田という男とその妻との思い出の話なんだけど、「横道世之介」を思い出した。望月麻衣「幸せなシモベ」は預かった”可愛くない”ペルシャ猫を愛するようになり、自分のことも肯定できるようになる女性の話。長岡弘樹「双胎の爪」、カツセマサヒコ「名前がありすぎる」も面白く読みました。

猫がいる風景は、みんな自分らしくいられるのがいいのだ…。

 

湯浅誠「つながり続けるこども食堂」751冊目

この人の本を読んでみようと思って探したときに、あまりにも多くてすごく迷ったけどまずこの本から。とてもわかりやすく興味深く、こども食堂の趣旨や現状を紹介してくれる良い本でした。

私も勘違いしてた。こういうの興味あるな、どんなところなのかな、と思いつつ、貧困状態にある子ども以外は行くと迷惑かな、行ってる子どもたちも、食堂の外から物見遊山で”まずしい子どもたち”として覗き込まれたらいやだろうな、とか思ってました。

「つながり」って、構築するのも維持するのも難しいけど、それって何?ということを説明するのも理解するのも定義するのも難しい、実態をつかみにくい言葉。でも誰かががんばって言葉にして、伝えないと、広がっていけない。著者の現状分析と言葉の表現力があって初めて、ここまでのムーブメントが起こせたのかもしれません。何か社会に必要なことを民間レベルで(ある意味ゲリラ的に)始めるのに、必要な才能を備えた人だなぁと感心しました。

かくいう私も、家族を持たずに中年になった身で、人からは「旅行ばっかりして趣味もたくさんあっていいね」とか言われるけど、それは何もすることがないから苦労して隙間を埋めてるだけだ。放っておくとすぐにウツウツとしてくる。私がボランティアに行くのは、誰かの役に立つためというより、自分の隙間を埋めるためだ。そういう人ってすごくたくさんいると思う。

いろんな団体のことを知るにつけ、どの団体も素晴らしいことをやっていると思うけど、それぞれに個性があるなと最近は思う。今すぐ生命を救わないと死んじゃう人たちを助けに行く「国境なき医師団」、親を亡くして就学資金を欠いてる子どもに向けた老舗の「あしなが育英会」、海外でストリートチルドレンを預かって育てている団体、日本に来たけど難民認定を受けられず苦境が続く人たちをサポートする団体…。

趣旨に賛同できれば寄付はいつでもできるけど、ボランティアに行くには、あまり無理せず、自分の体力や時間、性格に合ったところに行くほうがいい。著者が提唱する、ゆるくみんながその辺にいて、ちょっと気にかけあっている、というあり方は私には合っているように思います。

調べてみたら、最寄り駅だけでいくつも「こども食堂」が開催されてるようだ。いつか私もきっかけを見つけて覗いてみよう…。

 

高野秀行「イスラム飲酒紀行」750冊目

もうタイトルからして禁忌な感じ。イスラム教徒の多い国は、ウズベキスタン、ドバイ、マレーシアに行ったけど、観光客が行くレストランではそれなりにお酒飲めたような記憶があります。でも現地の人は飲んでなかったなー。なるべく地元に近いワインを買ってホテルで飲んだりもした。でももちろん、現地の人と酒盛りする機会はなかった(ガイドの青年をホテルの酒盛りに引っ張り込んだことはあったけど)。この本で高野さんは「そうは言っても若い男たちは隠れて飲んでるんじゃないか」と当たりをつけて、酒のにおいを追います。そう言われてみれば、それもそうだよなぁ。よくここまで突っ込めました。酔っぱらってすぐ友達になって、ばんばん家に招待されてしまうこの人の人望というか人間力が、人見知りな私にはまぶしいです。

今回も面白かった。引き続き、読み続けてみます。

 

尾崎世界観「母影」749冊目

著者がやっているクリープハイプというバンドのことは、聞いたことあるかも?くらいしか知らない。インタビュー番組で見た彼が面白くて、先に本を読んでみることにしました。彼がむかし働いていた製本所で作られたきれいな本。

感想は、とても面白かった。起承転結はあまりない。ちょっと読んでてうるさく感じるくらい、小学生のちいさな女の子の強く豊かな感受性がカラフルに展開する。”よい”ことも”悪い”ことも、”きれいな”ことも”きたない”ことも、すべてをフラットに感じる彼女の環境は、大人の目で見るとなかなか厳しい。シングルマザーの母親はマッサージ師だけど、怪しいサービスもさせられていて、そのことを同級生も先生も知っている。同級生の父親もそのサービスを受けに通ってくる。

この女の子が大人の客観的な視点を持ってしまって、自分を低く思う日がいつか来るのかな。ずっと今のまま、ひょうひょうとしていてほしい気もするけど、そうすると外からの同調圧力がすごいことになりそうだしなぁ。

お腹いっぱいにはならない作品だったし、デビュー作は自伝的と書かれてるくらいだから男目線なんだろうし、もう少し追っかけてみたいなと思います。

母影

母影

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森博嗣「冷たい密室と博士たち」748冊目

森博嗣って比較的新しい作家さんだと思ってた(「すべてがFになる」を読んだのを覚えてる)けど、この2作目が書かれたのは1996年。だからまだ誰もケータイ持ってなくてUNIXでメールを使いこなせるのがサバイバルだったりします。データの運搬は今は亡きフロッピーディスク、すごい最新マシンのハードディスクは20GB。そして美少女の描写もなんとなく派手。

一方で、密室トリックは普遍的なものです。大学の中の低温実験棟で起こった大学院生の殺人事件の犯人は、建築部助教授+学生によってその施設独特のトリックやミスをあばかれていきます。

こういうのを本格ミステリーっていうのかな。技術中心で動機がすごく弱かったり、探偵たちが何の感情もなく血まみれの床を歩いたりしますが、そこを突っ込まず密室クイズを解くような感じで読みます。トリックの一部はわかったけど、犯人はわからなかったな。動機は…個人的には、論文剽窃で地位を脅かされる、とかなら説得力を感じられたかなと思いました。

この時代、まだカタカナ表記は「フォルダ」とか最後を伸ばさないのが標準だったので、昔のWindows本みたいで懐かしかったです。。。