藤本シゲユキ「幸福のための人間のレベル論」802冊目

思えば私にも、どうすれば男性に好かれるか?どうすれば素晴らしいパートナーを見つけて幸せになれるか?と考えて悩んで、相性占いに凝ったりそういう指南書を読んだりした時期があった。不幸から抜け出せない親のことで悩んで、とことん付き合ってどんどん自分も不幸になっていった時期もあったなぁ。自分と関わってくれた人たちを切り捨てることができなくて、一人でいれば幸せなのにあえて堕ちていく、っていうのが若いころの自分だった。こう書くと「バカな女だ、そんな奴ら置いていけ」って思うけど、不思議と後悔はしてない。そこまでやりきったから、今はもう深入りはしない。体でわかるまで、納得するまで実体験できてよかった。

会社を辞めるのをずっと迷ったのは、お金が何とかなるとしても、会社がなくなったら自分がなくなるような不安があったから。「辞めちゃえば?」と言ってくれた人は、尊敬する人でも悩みを相談した相手でもなく、先に会社を辞めた友人だけだった。結局自分で決めたことだけど、定年よりだいぶ前に退職したことは、今までで一番いい判断だったと思ってる。今はしみじみと幸せで満ち足りていて、いろいろなことが楽しみで、自分がもっと何かに役立つことができるっていう思いでいっぱいになってる。

でこの本ですが、タイトルがインチキっぽくて普通なら読まないけど、尊敬する人から勧められて読んでみたところ、意外なほど納得できました。(失礼な言い方で申し訳ないです)レベルとかステージとかスクールカーストとかの言葉そのものが嫌いなので、そこでピキ!と来ちゃうんですよね。すみません。でも、これは財力とか世間的な名声とかを高める本じゃなくて、そういうものをどれだけ棄てられるかという「レベル」の話でした。

思うに、生まれたばかりの子どもはとても高いところにいるんじゃないかなぁ。そこから型にはめられて、周囲の人たちの思惑や夢に引きずり回されて(自分で選択してるんだけどね)、20代~30代くらいがいちばん先が見えず、悩みや苦しみが強くなるけど、40代50代になって失うことを知ると、人やものに対する執着が自然とはがれ落ちて、きれいになっていく。ペガサスに戻っていく。

だからこの本も、渦中にいる人が読んでも変われないのかもしれない。私は老後を見越したオバサンだから共感できるし、それが立派なわけでもない。私はこの本を読むまでもなく、自分がもっと幸せになるために、面白いことを仕掛けて、あわよくばそれを使って誰かが少し幸せになってくれるといいなと思ってる。この本でいうペガサスのようなものを自然と目指してる。

輪廻転生っていうスパンで考えると、今生で若い頃にバカなことをして苦しんだことは、自分には必要な学びで、今の自分がその頃より賢いのも当たり前。青筋立てて目を血走らせて(そうだっけ?)がんばって、挫折ばかりして大泣きしたりしてた若いころの自分が、今は可愛く思えます。もう生まれ変わらなくても十分楽しんだ、苦労した、やりきった、と思えるよう、残りの人生をますます「気が済む」まで生ききることだけがこの先の目標かな。

 

丸山健太郎「珈琲完全バイブル」801冊目

コーヒーは私のライフワークの一つなので、良さそうな本を見つけたら片っ端から読みます。

この本は、生まれて初めてコーヒーに本気で興味を持った人にとっては「完全バイブル」だと思うけど、私はもう変な偏りとか歪みとかを持ってしまった悪いマニアなので、好みとしては先日読んだ、嶋中労・旦部幸博「ホーム・コーヒー・ロースティング」の方が今自分が求めてるものと一致してますね。もちろん、「完全バイブル」の一部分でも完全に理解したりマスターしたわけじゃないけど(カッピングもブレンドも、私にはまだ無理)。

生意気言ってますが、ゲイシャの生豆も買ってみようとか、ガテマラは次に買ったら深煎りやってみようとか、金属フィルターやマキネッタ久々に使ってみよう、こんどウェーブフィルターも買ってみよう、など、この本で得たものも多いです。

コーヒーの世界は、深くて広くて本当に楽しい…。

 

山口雅也「落語 魅捨理全集 坊主の愉しみ」800冊目

久々に山口雅也作品を読んでみました。江戸を舞台にした時代(倒錯)ものミステリーです。

ずっと読み続けてるわけじゃないので、小ネタにわからないものが多くて、笑えたり笑えなかったりですが、楽しい短編集でした。それにしてもこの人の作品は小ネタが多い。。。

 

山崎俊輔「普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門」799冊目

これはいい本だった。別のFIRE関連の本を読もうとしてて、たまたま見つけたらAmazonプライム会員は無料でKindle版が読めるというので、さっそく読んでみました。

Fireというのは、Financial Independence, Retire Earlyの頭文字だそうです。名詞と動詞がくっついてて和製英語かと思ったら、これがオリジナルらしい。要はお金をたくさん貯めて早く会社を辞めようということ。2年前にフルタイムの仕事を辞めて、なんとなくパートや受託の仕事をしながらも貯金を減らさず、切り詰めて楽しく自由に暮らしてる私は、2年前からこの言葉を知ってたら「私FIREやったの!」って威張れたんじゃないかと、不勉強を悔やむ気持ちになりますね…。

私の場合は50代で会社勤めを辞めて、その後はパートや業務委託の仕事をしながら、貯金を減らさない程度の節約生活をしてます、というパターンなので、典型的なFIREではないけど、FIREで辞めても仕事がしたくなってこのくらい働いてる人もけっこういるんじゃないかと思います。

完全なFIREでも私みたいなセミFIREでも、必要なのは「贅沢しないこと」。それはこの本にも何度も何度も書かれています。前は時間をお金で買う感じで、ヒマがあったらさっさと高い喫茶店でも入ってとにかく休むって感じでした。今はコーヒー豆を焙煎して、挽きたての豆でいれたコーヒーを飲みながら、図書館で借りた本を読む。一番大切なのは「時間をどう使えば幸せでいられるか」で、会議や通勤に毎日何時間も取られていたのがなくなった分、がんばって節約するのは私には向いてたと思います。

とはいえ、早期退職は誰にでもおすすめできるものじゃないです。私は仕事もしてるから、自分で帳簿も付け始めた。自分のことを自分で管理することは「大変」じゃなくて「楽しい」から多分こういうしょぼいセミFIREに向いてる。いやな仕事や苦手な人と一切かかわらず、細々と好きなことだけして暮らす。過去に貯めたお金になるべく手を付けず、お金の勉強もして少しは増やす。周囲の人たちはかなり驚いたと思うし、仕事がそんなに辛かったのか、と思われただろうけど(それもあるけど)別のやり方もあるんだよ、ということを知っておくのはどんな人にとってもプラスだと思います。

この本は「FIREってどういうこと?」「実際やろうとすればできるもんなの?」という二大疑問を日本の制度や実態に合った形で過不足なく説明した、すべてのサラリーマンにおすすめの本です。(自営業や、貧困ギリギリの人向けの本もあるといいなぁ。自分で書けないかしら。。。)

 

原田マハ「ユニコーン」798冊目

美しい本です。赤が基調の、若い貴婦人とユニコーンをあしらった一式のタペストリーと、初期のフェミニストと言われるジョルジュ・サンド。史実をベースに原田マハが創作した物語と、ジョルジュ・サンド自身が残した文章で構成されています。

ジョルジュ・サンドって誰だっけ?というくらいの知識しかない私がWikipediaを見ても、与謝野晶子瀬戸内寂聴みたいな情熱的な文筆家なんだなと思う程度ですが、意外と面白く読めました。誰にも解説・解読されずに保存されてきたミステリアスなタペストリーと情熱的な女性の存在。だいいち描かれているのが処女性(喪失)の象徴であるユニコーンなので、神秘的な世界が広がってしまいます。

それにしても、見れば見るほど見入ってしまう不思議なタペストリーです…。

 

竹宮惠子「少年の名はジルベール」797冊目

これが竹宮惠子サイドの物語。

先に萩尾望都の「一度きりの大泉の話」を読んで、多分竹宮惠子も辛かったんだろうなと思って、読んでみました。

みんな懸命に描き続けてきたんだなぁ。と、しんみりと感じ入るしかないですね。追いつめられることが続くとおかしくなってしまって、こもってしまうこともあるし、吠えてしまうこともある。うまく自分をコントロールできる人を尊敬するけど、私はいまだにうまくやれずに嫌われたり心配や迷惑をかけることが多い。自分も傷ついてきたけど、必要以上に人を傷つけてきたんじゃないかとも思う。自分のことを説明したり伝えたりすることが、うまくできないんだ。

二人とも、苦しい思いを吐き出してくれてありがとう、という気持ちです。作品から入って、神のように見えていた彼女たちの痛みを知ってわかちあって、少し救われる人もたくさんいるはずだから…。

 

ジャナ・デリオン「生きるか死ぬかの町長選挙」796冊目

タイトルが気になって読んでみることにしました。原題は「Swamp Sniper」ですって。舞台はアメリカの沼地の小さな町なのでswamp、そこになぜかCIAのスパイがやってきたのでsniperか。日本の題名のほうが引きが強いし、最近の日本の”ちょっと目先を変えたエンタメ・ミステリ”っぽくてキャッチーです。娯楽にこういったキャッチは大切。ちなみにシリーズの3作目。順番間違えた!?と思うようなストーリーではないけど、主人公以外の二人の女性、アイダ・ベルとガーティが老人だということに気づくのに時間がかかった。あまりにも元気でエネルギッシュなので。。。表紙にちゃんと若い女性+老婦人2人の絵が描いてあって、もしかしてこの3人だよなぁ、やけに老けて描かれてるけど…と思ったりして。

1,2作目も読めば、主人公が沼地の老婦人たちと親友になった経緯もわかるかな。それに、主人公の本当のミッションはまだ明かされてないので、次回作も読みたくなります。その辺、読ませる仕組みがうまいですね!