チャールズ・エリス「敗者のゲーム」907冊目

私が読んだのは原著第5版、日本語版の発売は2011年なので、その後だいぶ内容が変わっているかもしれません。といっても、投資に対する態度や考え方を科学的に指南した本なので、この本の内容自体がマーケットの動きと連動して変わってたら、そもそもこの本の意義がわからなくなっちゃうのですが。

これもまた良著でしたよ。小説も読むし旅行ガイドも眺めるけど、良さそうな経済本があれば片っ端から読みます。こういう基本を説く本って、いろんな投資の本を読み漁ったあとでやっと出会えるのは不思議・・・いや不思議じゃないな。最初は多分、新規上場株やバリュー株のデイトレードの指南本や、手っ取り早く「今買うべき株」を教えてくれそうな本に飛びついたりしてました。私みたいな投資初心者ってきっと多いと思います。一度は上がったり下がったり(高騰したり暴落したり)に一喜一憂しないと、安定運用に意識がいかないのかもしれません。私も、なんとなく今はわりと安定してるように感じてるけど、その前にはバカみたいな失敗が積み上がってるんですよね・・・。ちっちゃい金額でたくさんやらかしたことからしか、私の場合は学べなかった気がします。

10年前は「機関投資家って何?」と証券会社の友達に質問してバカ扱いされた私もその後、ファイナンシャルプランナーの勉強もしたし、手堅い不動産と確実なドル建て保険、金や外国株、S&P500投資信託や債券など、金額は小さいけどチマチマと分散して老後に備えています。(※現時点で日本株と暗号資産ではずっとマイナスという有様だけど)特に不動産ってのは、金額が小さくても「ベーシックインカム」くらいにはなるので、早期退職を考える人には向いてるアイテムじゃないかという気がします。思い返してみると、マンション借りるんじゃなくて欲しいなぁと最初に思ったのは、IT企業の派遣社員だった頃、同じ派遣のおじさんが実はITバブルで儲けてビルをいくつも持っていると聞いたときだった・・・。派遣の仕事をしてるのは趣味みたいなものだって。そういう生き方がしたいとすっごく思ったのでした。

ベストなのは日本の場合、しっかりした企業に新卒から定年まで勤めて、たくさん退職金をもらって、年金もたっぷりもらって、一生いちどもお金の心配をしないこと、かもしれない。私はその辺が薄い外資系企業に就職して、何度か転職もしたので、早くから危機感を持ったかもしれません。

この本は後半で、教育と健康に対する投資も長期的に重要と書いています。教育に対する投資も、社会人になって以降、いろんな通信講座や通学講座にお金や時間を使ってきました。通学の場合は最後まで続けたけど、通信は修了できた確率が実は半分くらいかもしれない。本だけ買って辞めたものなんて10は下らない。でも全部やってよかったと思ってます。そのうちいくつかは、今も仕事につながっています。

ずっと考えてるのが、宅建の資格を取るかどうか。不動産マーケットって企業と個人の知識差が巨大だし、売りたい人と買いたい人のマッチングや不動産再生とかがまだ全然進んでないから、まだまだ新ビジネスが必要だと思うんだよな・・・。でも「働きすぎない。余裕第一」の半隠居の身なので、本業に無理が出ない範囲内で考えてみるかな・・・。

たまたまこの感想を読んだ人への注意。この本に書かれていることはアメリカ国内の話で、日本を含むほかの国には必ずしも適用できません。てことは日本でアメリカ株やその他外国株を運用する場合、為替リスクという大きなリスクファクターもかかってくるので、だいぶ勉強や覚悟が必要ですね・・・。

 

 

ダン・サラディーノ「世界の絶滅危惧食」906冊目

正直、「絶滅危惧種」より「絶滅危惧食」のほうが興味がある。レッドリストに載っている美味なカニとかが載ってるのかな・・・(※載ってませんでした)

日本の人ならみんな、図鑑みたいなカラフルな本を期待すると思うけど、500ページもある大著でありながら図版はゼロです。ゼロ。世界中のさまざまな食物を扱っていながら。「美しい」とか見た目の描写も多いのに。どうして欧米の人たちはこういう本を作るんだろうね・・・。

個人的に興味をもったのはやっぱりコーヒーのページかな。アラビカ種以外にも、安く流通しているロブスタ種、巨大なマラゴジーペも飲んだことあるしゲイシャは最近有名だ。この章だけ内容についていける。。

小麦や羊の品種には造詣がないのであまりピンとこないけど、あとは日本の伊豆半島で作られているという「潮かつお」(かつお節の原型?塩鮭のようなかつおの塩漬け)が気になりました。これは生産者がかなり減ってるらしいけど、今でも手に入るので、いつか味見してみたいと思います。

 

村田沙耶香「地球星人」905冊目

最近わりと目触りのいい(そんな言葉ないか)小説ばかり読んでたので、毒気に当てられたくて久しぶりにこの人の本を読んでみる。

少女が自分自身のことを選ばれた魔法少女だと妄想し、同様に自分を宇宙人であると妄想しているイトコと共鳴しあう・・・というところまではいい。SFだ。彼らの家庭はちょっとおかしい。かなりおかしい母と姉が家では彼女に当たり散らす。自分を「ゴミ箱」と感じる彼女は塾講師に性的ないたずらを受ける。・・・そういう少女の逃げ場として妄想があるのか、と、だんだん読んでいて気分が悪くなってくる。これだ。この感じ。そしてその胸が悪くなる感じは、結末までひたすらエスカレートする。あっぱれだ。

もしかして村田沙耶香は、筒井康隆的な荒唐無稽でぶっ飛んだSF作品の正統的な後継者なんじゃないだろうか・・・。

予想も期待も超えたすさまじい作品でした。拍手。

 

窪美澄「夜に星を放つ」904冊目

短篇集だった。どの短編にも星座や星がモチーフとして出てきて、どの短編も家族間の関係を切なく描いている。だいたい家族の誰かが死んでいたり、いなくなっていたりする。家族って星座みたいなものなんだろうか。天体は地球から見てほぼ不動だけど、あれとあれ、と星をつなげて線を引くのは人間だ。家族って誰かがランダムに引いた線に囲まれた領域でしかない、みたいな。

ふがいない僕は空を見た」は映画だけ見たけど、あれは衝撃だった。コスプレイヤー関連で人妻と不倫をして、その動画が拡散されて学校でもばらまかれてしまう主人公。この子死んじゃうんじゃないか、と思いながら見てたのを覚えてる。誰にでも、とは言わないけど、そういう絶壁のふちに立たされるような経験をした人なら、あの映画で少しは救われるだろうか、と思った。それと比べると、この短篇集はとても静かでゆるやかで、ちょっと小粒な感じだなと思う。長年書き続けてきた作家がとうとう直木賞を取る作品って、(佐藤正午の「月の満ち欠け」みたいに)わりと重厚長大な感動作をイメージしてたので、意外。面白いし、じわじわときたけど、存在感は群像で賞を取った若い才能ある作家の最初の単行本みたいだったので。重けりゃいいってもんじゃないんだよ、と選者のみなさんから言われてるような気がする。

こんな風に、少し知ってるけど読んだことがなかった作家の作品を読むきっかけとして、賞の存在って私にとっては大事なんだよなぁ。

 

地球の歩き方BOOKS「世界のおみやげ図鑑」903冊目

次々とこのシリーズを読んでみます(これって読むための本?)。

女性の多くは、旅に出るときはただ行って帰ってくるんじゃなくて、たっぷり思い出を作って、かつ、自分にも友達にもおみやげをたくさん買って帰るんじゃないかと思います。

この本に載っているのは、カラフルで可愛くて可愛くて、眺めているだけでウキウキする雑貨類。なぜかすごく美味しそうに見える、現地のジャンクフード、などなど・・・。楽しいなぁ、おみやげって。

忙しく働きながら、休みが取れれば必ず世界中に飛んで回ってた頃、会社の同僚へのバラまきみやげを買いまくったことを思い出します。最初の海外みやげはエジンバラで買った、各種タータンチェックの短いウールのマフラー。アメリカに行ったときは、現地スーパーのエコバッグが同僚に好評だったなぁ。なぜか、当時はまだ使われていた映像制作用のデジタルビデオテープのサイズにぴったりで・・・。コロナの何年も前に、殺菌もできるいい香りのハンドローションを大量に買い込んだこともあった。ブータンで買った切手を配ったときは、受け取った人もちょっと困っただろうなぁ・・・。

すっかり回想にふけってしまった(笑)

おみやげを見てるだけでも旅の楽しみがありますね。憧れの南米ツアー、また探し始めてみようかな・・・。

 

地球の歩き方BOOKS「世界のすごいホテル」902冊目

このシリーズおもしろくてあれこれ読んでますが、今度ばかりは!私が泊ったことのあるホテルは1つもありません!わりと遠い国にも旅行したけど、遠ければ遠いほど、言葉や移動の問題がありがちなので、ツアーに入りがち。そうすると、無難で室数の多いホテルになりがちなんですよね。

・・・いや、そういうレベルじゃない。南極唯一の一般観光客が泊れるホテルとか・・・砂漠やジャングルのど真ん中、氷や塩でできたホテル、鍾乳洞の中のホテルなんて、泊まるわけないじゃないですか。この本は、一般人はガイドブックとしてではなく、図鑑とか写真集のように楽しむものであって、本当に行くのは旅行好きを超えた好事家、ひらたく言えば「物好き」(しかも富裕層)だと思います(笑)

ぱらぱらと読み終えて、あー楽しかった。これだけで行った気にはなれないけど、心が広がるような気がします。この本に載ってるホテルのうちどれか1つでも、一生のうちに一度泊れればいいかな・・・。(JFK空港直結のTWAホテルや、世界最古の日本の宿「慶雲館」なら私でも泊まれそう)

 

高瀬隼子「おいしいごはんが食べられますように」901冊目

単行本の小説はすぐ読み終わる。この本も、順番を待ってる人がたくさんいるから、早く図書館に返しに行かなければ。

ところで、日本社会っていつからこの本の中の職場みたいに均質化してしまったのかな?私にいたいろんな職場には、しょっちゅうケーキを焼いてくる人がいたら「俺甘いの苦手」とか「私ダイエットしてるから」と言える人が何割かいたと思う。でも思い出して見ると、私が就職したときの”リクルートスーツ”は紺でなくベージュにしたし、同僚の女性なんて、きちんとしたワンピースで面接に臨んで合格してた。会社員の通勤着のきちんとしたやつ、で良かったのだ。今の、季節の風物詩みたいに同じ紺のスーツで同じような髪型とメイクの子たちがぞろぞろ歩くのを見るとちょっと怖い。

面接室へのノックは3回?決まりがあることを好む人は、前からたくさんいたんだろうけど、勢力を拡大してる。そういうのが嫌で嫌で、苦手で合わせられなくて私は会社勤めを辞めたけど、長年会社の仕事の中で得たものを使って生活してる部分もあると思うので、集団生活に耐えることも大事なのです。(取ってつけたように)

話代わって「おいしいごはん」。忙しいときには確かにこれが呪いに聞こえる瞬間がある。(9割のご飯はなるべく美味しくて美しいものを食べようとして毎日あちこちに出かけている私でさえ)でも、美味しいご飯や豪華なレストランが善きものであるという観念を押し付けること、押し付けられることは勘弁してほしいと思う。

「芦川さん」の鈍感力(わざとか)は強烈だけど、彼女の賢さについてもっと知りたかったなと思ってしまう。なんか、料理上手だったとだまされた男たちが口々に言う、結婚詐欺常習犯の女性を思い出すけど、彼女は専業主婦におさまっている、人口の何割かを占めるマジョリティの一員なんだろう。鈍感というより感じなかったことにする、何かありそうだと思っても考えないことにする、「思考停止力」かもしれない。村田沙邪香なら芦川側からの腹にズンとくるストーリーを語ってくれるかな・・・。