岡野雅行「人のやらないことをやれ!」35

「蚊の針のように細い、痛くない注射針」や携帯電話用の電池ケースを作った、最近話題の「すごい技術をもつ町工場」の一つ、岡野工業の社長(「代表社員」と言ってますが)が書いた本。副題「世界一の技術を誇る下町の金型プレス職人、その経営哲学と生き方指南」。世界一らしい。Newsweekの「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれたらしいです。光る技術をもつ中小企業はたくさんあるんだけど、世界一!がついたり、何かよほど特徴がないと、1社で1冊の本にまではならないんだろうな。

本全体のデザインも、本を書いた社長さんのキャラも、「下町」「庶民的」なので、前書きを見るまで、あの注射針を作った最先端技術の会社だと思わなかった。その社長が終始一貫して「べらんめぇ」口調のまま、自分の生い立ちから会社の今に至る歴史までを語ります。

字が大きいしそう厚くもないので、さらっと読んでしまいました。これは自叙伝ですかね。「経営哲学と生き方指南」とありますから。技術について書いてある部分が少ない!インクスの本では、名高いプロセス・イノベーションについて詳しく書いてあったけど、この本から技術革新について学ぶところはあまりないというか・・・「無理だと言われると作りたくなるのが成功の秘訣」、とかそんな感じの本です。

以下、印象にのこったところ:

p86 そうか、金型屋から見たらプレス屋は青々とした芝生をたたえた「川下産業」なんだ。

川上のことを川下の「下請け」と呼ぶケースもある。川上の人はなんとなく、自分が下請けであるという意識があって、だから難しいとわかっていても川下に進出しようとしてしまうんだな。

あらためて考えてみると、学校のすごいところは、世の中にたくさんある「理論上明らかに失敗への道を突き進んでいる企業」の社員が、失敗まっしぐらの戦略を携えて学びに来ているところ。先生たちにいくら「ぜったい失敗するからやめときなさい」と言われても、社長が行け行けというからには社員としては止める訳にいかない。学校で言い争っても会社の路線は変えようがなくて、それが現実なんだよな~、と思い知り、ギャップのなかで悩んだりしつつ、世間では優良企業とか期待される企業と言われている企業の社員が、ふと転職を考えてしまったりもする。現実社会というものは、生身の人間によって作られているものなのです・・・。

p142 仲介者を省略することで、無駄なコストを削減する・・・ということを、業務のIT化とか合理化をするときにいつも行いますが、ここで岡野社長は「間に入った会社を蹴飛ばすと元も子もなくなる」といいます。営業までやれない中小企業だから、というのもあるんだろうけど、いい関係を継続するためのコストを重視するのは大切なことだ。削減すべきムダな費用なのかどうかを、いつも考えなければ。