野村進 「千年、働いてきました」62

T先生の課題として読みました。「角川oneテーマ21」っていう新書です。4版を重ねる売れ筋商品。著者はアジア各国を回ってきたノンフィクションライター、この連載が掲載されたのは「野生時代」ってあたり、かなり柔らかい本だってことがわかりますね?

内容は、わたしが学校でケースを読んだり書いたりしてるような、日本の昔ながらの中小企業で、かつ面白く革新的な技術で生き延びている企業について書いてありますが、その表現は・・・Spaみたいな柔らかい雑誌に載ってるマンガの「潜入取材!」みたい。著者の今までの人生経験の蓄積を踏まえて、極めて個人的な感想と考察を交えて、感じたこと・思ったことをありのまま書いた感じの本です。つまり、面白い。普通優良企業のケースって、興味深いけど一気に一冊読み切れるほどやさしくないんだけど、この本は勢いつけて読めちゃいます。

アジア諸国を旅した経験を踏まえて、日本以外のアジア諸国には「老舗」企業がない、といいます。その理由として、たとえばChinese系の企業は同族企業、しかも血のつながった血族に後を継がせる企業が多いけれど、日本は実の息子の出来が悪ければ平気で優秀な娘婿に社長をやらせる・・・と書いてます。それだけでもないんだろうけど、日本人って会社を家族のように思ったり、会社の存続に命をかけたりすることもあるので、血族に勝つほどの何かがあるのかもしれない。

でも、そういう理屈ばっかり書いてる本ではないです。毛が細くなって抜ける薬を発明したので、オーストラリアの牧場に売って、羊の毛を刈らずに毛の部分だけ「脱がせればいい」仕組みを作った会社とか。工場廃液の有毒成分を分離・無毒化していた会社が今は廃棄された携帯の山から金や希少金属を抽出して設けているとか。エピソードもきわめて興味深いです。

「ものづくり」って言葉が嫌いな人にこそ、読んで欲しい本です。