中島聡「おもてなしの経営学」115

この本で私が強い印象を持った登場人物の順番は、1.ひろゆき氏、2.中島氏、3.梅田氏の順番でした。私は違法すれすれなことをする人も、辞めた会社のことを語る人もあまり好きじゃなくて、正直けっこう先入観を持ってたんだけど、いいこと言ってて意外でした。

ひろゆき氏の、”何をすれば大衆に受け入れられるかは本質的に予測不可能なので、いろいろやってみるしかない”と達観してるところが面白くて、そのため彼は利害の偏見なしに真実を見抜くことができる、ような気がします。

たとえば「グーグルにしかない価値がわからない(p132)」とかMSに対する理解とか、みょうに鋭いところがある。ネットを否定する世代の親の下で育つ子供、という世代のギャップを「2ちゃんねる」ユーザーについて語ってるんだけど、これはジャズでもロックンロールでもパンクでも、ありとあらゆる流行のファッションでも、ずっと起こり続けてきたことだ。

つまり・・・自分(子供)は、自分に取捨選択する力、生き延びる力があることを知っていて大人に反抗するんだけど、自分(大人)は次の世代のものが自分と同じ判断力や生命力を持たないと信じて疑わない。

読書は純粋な趣味で、楽しませてほしい!驚かせてほしい!から、私は音楽や絵画と同じように、本にも「珍しいものに初めて出会った驚き」を期待します。そういう意味で、ハーバードの誰誰教授の手法を上手に説明してくれるより、粗雑なオリジナル・アイデアを見たい。と思ってたら、はからずも梅田氏自身が自分の「translator的能力」について言及してました(p267)。

以下メモ。

p27 アップルって本当のところどういう会社なんだろう。ジョブズは嫌なやつだったと聞いてるけど、今は彼がエンジニア(ギーク)に慕われていて、そのおかげでいい製品がどんどん出てくるのか?

病気の後そんなに急にいい人になったのか?・・・今度はJames Brownと比較してみましょう。アクの強いミュージシャンは身近な人たちに迷惑をかけることがあるけど、次のジェネレーションのフォロワー達からは崇拝される。ジョブズは戻ってきたら伝説の人になってたってことなんだろうか。

p111。ギークとスーツの融合の重要性・・・エンジニアももっとMBAを取るべきと言っていて、その意味でR大のビジネススクールは学校としては良いと思います。エンジニアは主体的に目標をもつか(MBAコース)、目標を持ったリーダーに従って努力(融合コース)するのが良い製品への道で、それなしで「好きなことだけやってろ」というのはあまりいいアイデアじゃないと思います・・・。

p236 中島氏は帯にも文中にも何度も、「どうしてソニーはアップルになれなかったか」というフラストレーションを、特に出井さんの施策に対して延べてます。出井さんはどうして中島氏の言う「スーツとギークの融合」ができなかったんだろう?当時のソニーのCTOあたりに直接聞いてみたいものだー。

p240 梅田氏は、日本でインターネットのソフトウェアを作って成功するベンチャーに出てきてほしい、と思っているけど、小規模な開発グループが、大企業にまねのできないものを作るのはとても難しい。大企業がベンチャーを買うのは素晴らしい未知のテクノロジー+ユーザーベース込のことも多いので、買収 or 上場を果たすには、国内じゃなくて世界のユーザーをあっと言う間に手に入れる必要がありそうです。やっぱ、いきなり使える英語力が必須になりますね。みんなまだまだ英語の勉強が足りんよ~。(←お前もだろ)

もう1つ気になったこと。p254で、Googleが広告だけで儲けてるのに、それ以外のR&Dやインフラに資金を投入しすぎてるというようなことを書いてるけど、トヨタみたいなハードウェア企業の投資額と比べても本当に大きな資金投入なのかな?ソフトウェアやサービスの開発は製造設備を開発しなくていいから、全体的にハードウェア企業より開発投資は低く抑えられることが多いはず。インフラに投資するイコール垂直統合というのは早急で、せめて「川下への一部進出」くらいにしとくべきだと思うし、それにこれを読んだだけだと、Googleの目的は自分たちのサービスの補完者の増強くらいのように見える。