桂歌丸「極上 歌丸ばなし」221

この本は渋いよ。新宿末広亭で入手したサイン入り本を人にいただいたものです。発行元は「うなぎ書房」(笑)。私は特別な落語ファンでもないし、ちゃんとした噺を聞いた経験は数えるほどしかないけど、歌丸さんは私の一番好きな落語家です。(その前は桂枝雀さんが好きだったなぁ。)

この本で歌丸さんは、聞き手を相手に自分の生い立ちから落語家としての修業、今に至るまでの道のりを語ります。「軽妙洒脱」という表現は歌丸さんのためにあると思う。粋で清潔で軽くて色気がある。知的で紳士的。

彼はとある歓楽街の遊郭の家の子として生まれ育ったのだそうです。「遣り手ババア」と呼ばれた祖母と彼と遊郭に出入りする人々の生き生きとしたエピソードが、まずかなり面白い。

落語家になるのを決めたのは14歳のとき。1年後にはもう入門し、わりあい師匠に可愛がられたけれど、ちょっとした行き違いからそこを飛び出してやがて別の新しい師匠につく。最初は新作ばかりやっていたけど、その後は古典の面白い話を発掘してアレンジすることに専心するようになる。・・・落語の団体は複数ありますが、老舗のひとつ「落語芸術協会」の会長を2004年から務めている・・・というのが、この道に進んでからのあらまし。

聞き手の山本進氏は、歌丸さんのファンでもあるのかもしれないけど、つとめて彼を客観的に噺家のひとりとして語ろうとしている印象です。だから私も、珍しく「大好きな歌丸さん」ではなく「歌丸という一人の噺家」として離れてみている。

そうして見ても、やはり彼は清潔であかるい人だ。たぶん家で家族といても、仕事で人と会っていても、あのあかるい目をしていて、きたないことなど決してしないんだろう。・・・でもそんなことどうでもいいのだ。ミュージシャンも俳優も自分たちとあまり距離を感じなくなってきているいまの時代だけど、落語家ってちょっと特別な感じがする。今でも長屋に住んでるんじゃないか、なんて思ってしまう距離感がある。

だからこの本は読んでも読まなくても、私の歌丸さんの芸に対する気持ちは変わらない。ただね、近いうちにまたライブで聴きたい!とやけに強く思いました。

以上。