李琴峰「独り舞」740冊目

これがデビュー作なのか。この中で描かれていることは、著者の”私小説”では決してないと思う。でも何らかの痛みにさいなまれて、小説のなかで”一度死ぬ(※結末を書いてるわけじゃないです)”ことによる生きなおしが必要だったのかな、と、しんみりする。

この人の書くもののトーンはどんどん変わってきてる。現時点での最新の単行本「彼岸花が咲く島」は現実から遠いファンタジーで、その中で小さき者たちが静かにやさしく暮らしている。波乱の予感もあるけど、読む人の心を解き放つような開かれた世界だ。昨日「アンモナイトの夜明け」という映画を見たんだけど、「彼岸花」にも夜明けのように何かが開かれて明るくなった感じがあった。「独り舞」は夜明け前なのだと思う。

恐ろしい事件や、他の人と違う特徴がないのに、海の底のような気持ちで過ごしていたことがある。何かがあるから責められなければならないわけじゃないし、何もなければ嫌われたり攻撃されたりしないわけでもない。「何もない人はいない」、人の心の痛みは外からは見えない。この先、世の中とどう折り合いをつけていけばいいのか…この本を読んで、なんとなくそういうことを改めて悩んでしまうのでした。