李琴峰「彼岸花が咲く島」720冊目

どこだろうこの島は、なんだこの言語は?

そういう新鮮な驚きが、読み始めてすぐにありました。地図が冒頭に載っているけど、形からわかるようなわからないような。でも、登場人物の一人、ヨナの話す言語を見てひらめいた。「これは与那国だ!中国語圏に一番近い沖縄の島だ。」昔は天気のいい日は与那国空港からも台湾島が見えたそうで、古ぼけた写真が小さい空港のどこかに貼ってあります。

ヨナの話す「ニホン語」は、シングリッシュシンガポールで日常的に話されている、中国語の混じったような英語)の語尾と同じ「ラー(了)」や「マー(嗎)」といった中国語の語尾が、沖縄ことばの最後にくっついてる。面白い。与那国のことばは消滅の危機にさらされてるというけど、本当にこんな言葉を話すんだろうか?

調べてみたら、実際の与那国方言は沖縄の言葉に近くて、特に中国語の影響はなさそう。ウミが話す、完全に漢語を排した(代わりに英単語が混じる)「ひのもとことば」も実在しないものだし、両方とも著者の作った新しい言語なんだな。

なんて面白いことを考える人なんだろう!…ちょうど私は今、日本語教師の勉強をしていて、方言やピジンクレオールの面白さを知ったところ。特に”ルー大柴語にそっくり”な小笠原クレオールの音声をネットで見つけたときは、残したい!と思ってしまいました。外国人が初めて日本語を学ぶとき、完全な日本語を身につける前に、母語の特徴が残った”中間言語”というものを用いているんですって。本当は世界中の人たちは、一人ひとり別の言語を持っているんじゃないか?言語って、なんてバリエーションの豊富な、正解のない世界なんだろう、とちょっと感動しました。

だからこの著者の言語感覚にすごく共鳴します。プロフィールを見たら、台湾生まれで日本で日本語教育学を学んだ人でした。なるほど。大人になってから別言語を本格的に学んだ人でなければ感じないであろう面白さを、形にして見せてくれました。

与那国島を使った女たちのファンタジーを、自分が発明した新言語でつづるというオリジナリティ。すごく面白く、自分では想像できなかった世界を見せてくれました。この作家のひらめきがこの先どう広がっていくのか、すごく楽しみです。