加藤シゲアキ「オルタネート」746冊目

最初に結論を言っておきますと、人間描写の行き届いた、愛のあるよい作品で、とても面白かったです。

冒頭にある「主要登場人物」リストを見たとき、「蓉」と書いて「いるる」、「凪津」と書いて「なづ」、「深羽」と書いて「みう」といった名前が並んでいて、キラキラネームってこういうのを言うのかな、と引いてしまった。読み始めたら、文章にどことなく若いリズム感(昔なら「キャピキャピ」とか呼んだような)があって、おばはんの私はそのリズムに乗れるかなと心配になった。登場人物グループが3グループに分かれていて、なんとなくごちゃごちゃしている。…そういう、わりと苦手意識が強い状態で読み始めたけど、読み終える頃にはばらばらな性格の登場人物全員に好感を持つようになってた。なかなかの書き手だと思います。

高校生っていう時期の少年少女の不安定さを、よくわかって書いてる。読むものの不安を和らげてくれる愛が感じられる。丁寧で危なっかしいところがない。この著者はこれからますます成長して強い書き手になっていくだろうなと感じました。(アイドルらしい、というだけでほとんど知らなかった)

とはいえ私の苦手ポイントは、ネーミングのセンスかなぁ。キラキラネームもだけど、SNSの名前やコンテストの名前、やたらフランス語や珍しい外国語を使いたがる感じは、瞬間的にはキラキラして見えるかもしれないけど、50年後には「?」って思うんじゃないかな。もっと普遍的なものを目指してもいいと思います。で、20年後くらいには歴史ものとか書いて直木賞候補になってほしいです。