岸俊彦「断片的なものの社会学」771冊目

学問ってふつう、ランダムに見えるものを膨大に集めて規則性や普遍性を見出すことだ。数式ならそれでいいしそれが役立つんだろうけど、ビジネススクールのようなものに通ってたとき、講師の書いた”成功の一般法則”の本に出てくる会社の不正が報道されたり買収されたりしたのを見た。その一般法則は大方、役に立たなかった。そういう感じを持ってる人がこの本を書いたり読んだりするのかな。何も前進しないし問題は解決しないけど、ほっとする。

1つの施設に3日間張って行きかう人たちを取材する「ドキュメント72時間」っていう番組がすごく好きで、終わりの音楽が流れるといつも泣いてしまうんだけど、なんで泣くのか説明できない。通りすがりの人に、その人がそこに来る理由や事情を聴いてすぐに別れる。その瞬間のかけがえのなさ。

うちには捨てられてたのを引き取った猫がいて溺愛して暮らしてる。預けられていた動物病院から引き取ってくる車の中で、道路で死んでいる猫を見た。うちの猫とその猫のどちらが特別なわけでもないし、どちらも特別だ。

前に介護施設でおばあちゃんたちのお話を聞くボランティアをしてたとき、若いころの武勇伝を聞いたり、お嫁さんが意地悪だという愚痴を聞いたりすることに、なんていうか魅せられてた。記憶があいまいだったり、多分半分以上ウソだったりするのかもしれないけど、語るその人のその時の時間はかけがえのないものだった。

そういうものを見てきた。それと同じようにこの本を読むし、この著者の他の本も読むんだよな。