タイトルにぐっときて即借り。でも予想とまったく違う本だった。
予想:音楽評論家が名探偵で、スコットランド・ヤードから呼ばれると(殺人現場に落ちてたCDがどこの国の何てレコード会社から出た盤か、どこでやったライブのブートレグか、等々)駆けつけてマニアックな知識と人脈で謎を解いていく
現実:音楽好きの男たちが、いきつけのパブの奥の部屋で毎週水曜日に「何も批評もコメントも説明もせずに、ただ持ち寄ったシングルレコードを交代で3枚ずつかける」という趣旨で「鑑識レコード倶楽部」というイベントを行うおはなし。オチも山場もない
この読後感、なんて言えばいいんだろう・・・嫌いじゃない、むしろ好き・・・ブレイディみかこさんの本やケン・ローチの映画に出てくるロンドン郊外のワーキング・クラスの男たちが、そのパブでたむろしてるようで。もっと遡ると、私は昭和後期のスカ・ブームのときの「マッドネス」とか大好きで、今でもなぜかファンクラブのメルマガを購読してるのだが、そういう私好みの世界がそこにあります。作者自身、この本を書いた時点ではバスの運転手だったらしい。(翻訳者柴田元幸が会ったときは配達の仕事をしてたと書いてある)
権威もなにもないのに、好きなことになると妙にうるさかったり。
でもこのお話は結局;
そのパブの店員の女の子が駆け出しのミュージシャンで、「このデモ盤をみんなにも聞いてほしいんだけど、恥ずかしいから、いいとか悪いとか一切感想を言ってほしくないの」クラブを立ち上げた男がそのカレシで、「わかった。俺に任せとけ」と言ったものの、似て非なる他のクラブがどんどん立ち上がってしまって後に引けなくなってしまった。カレシの友人の、おひとよしの音楽好きであるところの主人公が、それに巻き込まれて、事情を察しないで右往左往している。
というストーリーなんじゃないですか?
面白いのは、作者本人がこの本に多数出てくる楽曲をSpotifyでオフィシャル・プレイリストとして公開してるところ。時代ですわ・・・。(英語の原題と日本語の直訳と、歌詞の一部の要約だけ載せるぶんには、JASRACはお金を取りにこないのか。本のどこを見てもJASRAC許諾番号というやつが書いてない)
シカゴからは大ヒットしたメロウな「愛ある別れ(If you leave me now)」だけじゃなくバンド名に「トランジット・オーソリティ」が付いてたブラス・ロック全盛期の、テリー・キャスがボーカルの「I'm a man」も入ってるのがいい。
ダムドの「スマッシュ・イット・アップ」とか「アナザー・ガール・アナザー・プラネット」とか入ってるあたり、UKだよなー(パブに入りびたってパイントでギネス飲みまくってる時点でUK以外の何物でもない)。
アメリカのバンドもシカゴ以外にニルヴァーナ「Come as you are」とかスパークス「This Town」、ステッペンウルフ「Born to be wild」など多数。全体にやたらThe Whoが多いのもなんか嬉しい。
ああロンドン行きたい。(もうそれしか言うことはない)