吾妻ひでお「失踪日記」960冊目

「ルポ路上生活」の中で何度も言及されていたので、これも読んでみました。吾妻ひでおの描く女の子ってすごく可愛いなと子ども心に思ってたけど、ちょっとお下品系のエッチなマンガや、逆にすごくとんがったSFはまだ理解できなくて、普通の学園ものとかずっと描いてくれればいいのにと思ってた気がする。

この本は彼が膨大な量の仕事に追われて失踪し、山で暮らした日々や、マンガ家生活に戻ってからのアル中治療のことなどを、やっぱり可愛い彼のトーンで描いた作品集で、当時すごく話題になったのは知ってました。明るいトーンで描いてあってすごく面白いけど、なんとなく読後感が重い、やっぱり。”高度成長期”の人気マンガ家って、成績のいいサラリーマンみたいに「24時間戦えますか」を超えるプレッシャーを常に抱え続けてたんだろうな、作家をつぶさないようにすることなんて、当時の出版社は誰も考えてなかったんだろうな。この本に登場する編集者はわりと何人も故人だったりする。無理するのが当たり前の時代。今20代とかの人たちにはまったく共感できないと思う。その方が普通。

山の中の吾妻氏の生活は、落ちているものを拾って着るとか捨ててあるものを拾って食べるという厳しいもので、現代の都心で暮らした「ルポ路上生活」のふんだんな食糧配給とはまったく違います。私もいつか食い詰めたら都心で暮らそう。(女性の路上生活は、まだ描かれてないし、どんな苦労があるかまだちっとも認識できてないけど)

とり・みき氏が、絵も含めた漫画作品としての完成度が高いと言っていて、ほんとにその通りだと思います。可愛く描いてあるけど、さむくて一人で凍死しそうなときのとてつもない孤独とか、絵だけで伝わって来てしまうから、なんともいえず重くて感動がある。この作品を残してくれたことに感謝します。吾妻氏はきっと、すごく優しい人だったと思います。