矢内東紀「ChatGPTの衝撃」1011冊目

なんて退屈な、特徴のない、木で鼻をくくったような文章なんでしょう。・・・というのが正直な読み心地です。「えらいてんちょう」の本は何冊も面白く読んだのに、あの率直でエモーショナルな語り口はどこにもない・・・なぜなら、これは彼が自分で書いたんじゃなくて、ChatGPTっていうゴーストライターに書かせたものだからです。(自分で書いてる「はじめに」や「おわりに」も、いつもより客観的かつ非個人的な書きぶり)

だからか、この本はたとえChatGPTに関する情報収集だけが目的でも、読み進むのがつらい。きれいなだけで面白くない文章って、こんなに読みにくいのか。百科事典や国語辞典の記述のほうが、よっぽど人間くさくて胸に響きます。

ChatGPTの使いみちは「コンシェルジュ」がいいのかな、と思いました。右も左もわからない分野のことをざっくりと知りたいとき、たとえば初めて行った町のホテルで、今夜女性一人でご飯を食べに行きたいので、入りやすくてお手頃価格の地元料理の店を教えてほしい、というときには完璧なガイドができそう。(実際、この本でも似たようなことをChatGPTにさせている)応用編としては、スパイ映画でよくある、エージェントのVRグラスに文字や写真を映し出すAIツール。

コピーライティングなんかも、全部きれいにまとまってるけど既視感があるので、新しいブームを作りたい、今までに使われていない言葉を使いたい、そのためにお金もかけたい、という会社は使わないだろうな。斬新な方向性を決めて新しいキーワードを与えれば、あとは全部作ってくれそうだけど。

ほかに、恐ろしいのは、ネット上の文字情報として出回っていることを正確なデータであるかのように認識して、分析や報告をしてしまうところだな。実業之日本社マイクロソフトの企業分析をやらせてみて、情報の多いマイクロソフトのほうが精緻な分析ができていると著者は書いてるけど、ChatGPTは肝心の「データ」を探していないし見ていない。インターネット上で公開されている年次報告書をひとつでも見れば、マイクロソフトのソフトウェア製品のうち収入の多くを占めているのは、Windowsクライアントではなくてサーバー製品やOffice製品だということが簡単にわかるけど、ChatGPTはデータに当たらずネット上で語られているイメージを拾ってこのように報告書を書いている。「マイクロソフトの収益は、Windows OSに大きく依存しており、これが収益源の多様化を阻害する要因になっています。」(p71)

調査が足りない大学一年生みたいだ。PC上のWindowsのシェアが一位であったとしても、買ってきたPCに組み込まれてるOSの代金は意識しない人が多いし知ってる人は少ないし(調べようはあるけど)、Officeソフトのサブスク料金と比較することもない。ChatGPTは2021年以前のデータしか読んでないという言い訳もあるけど、2021年~2023の年次報告書どれもサーバー、Office、Windowsの順になってる。

ChatGPTの言うことを聞いて、どれくらいできるヤツなのかを知る上ではとても役立つ本だけど、本当に社運をかけて企業分析をしたい人は、データソースがよくわからないレポートなんて見ないと思う。

そもそもこういったAIはどういう仕組みで情報やデータを生成してるんだろう。それについて語ったものはまだ見たことがないけど(世の中にないっていう意味じゃなくて、私が不勉強なだけ)、翻訳ソフトが完璧な文法ツールを目指すのをやめて大量のデータから傾向を読み取るビッグデータ型に移行してから格段に使えるようになったように、ChatGPTもたぶん「ありものをうまく組み合わせて新しいものを作っている」んじゃないかな?と想像してます。もしそうだとしたら、シャネルのロゴはすべての元データにも生成されたものにもシャネルの権利が及ぶし、ミッキーマウス著作権は(※権利が生きているかぎり)すべての元データにも生成されたものにも及ぶんじゃないのか。

膨大な言語データを集積して作る「コーパス」データベースでは、取り込むデータの権利者からちゃんと許諾をとってるけど、読み込まれたデータの権利者のうち、ChatGPTから許諾を求められたり料金をもらった人っているんだろうか。Googleのような検索エンジンは、最初はサムネイルや情報の見出しを表示することで権利者に許諾を求めたりしてなかったけど、ニュースソースにはお金を払うようになってきたんじゃなかったっけ。アメリカは、明確な規制のないグレーな領域でどんどん新しいことを初めてもOKで、金銭的利益が発生していることが分かった時点で裁判や和解をして、妥協案を積み重ねていく国だと思うので、これから5年、10年後あたり、ChatGPTが世の中に浸透して普通に使われるようになったときに、どういう仕組みができているかを想像すると面白いかもしれません。

なんかChatGPTのことをおばかさんみたいに書いてしまった気がするけど、普通の人間が当たり前すぎると思って組み合わせてみなかったものを組み合わせるとか、その分野とこの分野を組み合わせるなんてありえないと思ってやってみなかったことを結び付けるような、人間の先入観が障壁になっている部分の打開は、どんな分野でもやすやすとやってくれると思うので、その辺でブレイクスルーが起こることも楽しみにしています。