藤沢武夫「経営に終わりはない」53

ホンダシリーズ第2段。藤沢武夫の語りを本にしたものです。

藤沢ってのは、たいへん豪胆な男ですね。

本田宗一郎の右腕、女房役、文系出身の知的な経営者、とか聞いてたもんだから、さぞかし線の細い柔和な人だろうと思ってたんです。読んでみたらむしろ本田の方がデリケートな天才肌のエンジニアで、藤沢のほうがカリスマ経営者っぽい。まるで乱暴で、時流を読む目がきわめて鋭い。やっぱり、本人に当たってみるもんです。予想を裏切られました。

つまり・・・マイケル・デルの場合売り物がコンピュータで、藤沢の場合は本田宗一郎の技術だった、って感じ。

たまたま宗一郎に出会ったからホンダを作り上げたけど、違うものを売っていたら、藤沢が単独で名をなしていただろうなぁ。

ホンダを育てていくエピソードは、あちこちでもう読んだので知ってるし、本田と藤沢は・・・というか当時のホンダの人たちは一体なので、この本を読んでも新しい事実はほとんどないんだけど、藤沢が各場面で何を考えてどういう発言をしてたかがわかって、新鮮です。できごと自体は知ってても、藤沢って人がリアルではどういう人だったかを知らなかった。実は怒鳴り散らしてた、みたいな。

だいいち、文学少年みたいな人だと思ったのに、この本も聞き書きなんですよ。藤沢も本を書いたりしない人だったんです。「そのとき俺がさ、言ってやったんだよ」みたいな無骨な語り口。見た目も、表紙に写真が載ってるけど、めちゃめちゃごついです。

言うことはとにかく鋭い。中学しか出てないけど、自分で本を読むし、考える。(こういうのを読むから、「学校なんか行っても無駄だ」っていう先生が出てくるんだな)でもそういう経験から何を身につけて自分の知恵にできるかは、その人の能力だから、真似しても似るもんじゃない。

印象に残ったのは、アメリカはすごい国だ、学ぶことがたくさんある、って語るところ。(p214あたり)

排気ガス規制を最初に敷いた国である、というくだりで、「一つの正しい理論があると、それが政治に優先するのがアメリカという国です。」という。間違った理論でほかの国を侵攻した、という事実もあるけど、正しいこともあったのだ。たしかに国策っていう意味で日本は逃げ腰すぎると思うことがよくある。

本としてはあまりまとまりがないけど、ものごとを両面から見て多面的に把握したい人には、補完の意味で必要な本だと思います。

以上。