松林宗恵監督「社長太平記」310

1959年作品。

森繁久彌の社長を小林桂樹加東大介が取り巻き、三木のり平が笑いを、淡路恵子が”お色気”をそれぞれプラスするという基本設定の”社長”シリーズが56〜70年の間に33本も製作されたそうです。いわゆる日本の高度成長期のサラリーマンの姿がよくわかって、実に興味深い映画でした。といっても会社っていう世界はそれほど極端に変わったわけではなくて、今見てもふつうにオモシロいコメディ映画です。

この映画の場合、軍隊の上長だった人が今は部下になっている、という設定があるのですが、それにしても社長と部下たちやバーの女たちとの距離感が近いですね。バーのマダムが社長を「沼田ちゃ〜ん」って呼ぶ、みたいな。今はむしろ、クラシカルなつもりで平社員を社長扱いするようなところなのではないかと思います。電話交換のお嬢ちゃんが社長に「豆ダヌキ」と呼ばれてタメ口きいたりとか。

それにしても笑ったのは、この下着会社の社員の三木のり平が今でいうヌーブラそっくりな下着を裸になって身につけて踊ってみせるところや、バー「くまん蜂」3周年記念とやらで各社社長が舞台でフレンチカンカンを踊らされるところ・・・。

時代背景をビジネススクール的に分析すると、この映画が公開された1959年に、本田宗一郎は53歳で本田技研工業設立13年目。株式上場もとっくに済ませて、ベストセラーのスーパーカブを前年に発売し、この年はホンダアメリカを設立した年にあたります。ソニー東京通信工業)も設立13年目で、55年に売り出したトランジスタラジオが売れて売れてしょうがない頃です。井深大は51歳だけど盛田昭夫はまだ38歳。がんばって働けばお金がもうかる、日本が良くなる、という思いに何の疑いもなかった時代、かな?と思います。

それにしても驚いたのは、当時実在したらしい「海軍バー」。今で言うコスプレ系の飲食店の一種で、店員がみんなセーラー服だし外国人の踊り子さんがぴちぴちのセーラー服を脱ぎながら踊ったりしていて、日本のサラリーマンってのはまったく昔っから・・・とか思います。しかし海軍って今は第二次大戦の張本人のように語られることが多いけど、戦争の傷跡も癒えないだろうに、この頃のOBにとっては懐かしむ対象だったのですね。エリートが多かったのでしょうから、そこに所属していたことが誇らしかったのかもしれません。

森繁の演じる社長が思い切りダメ社長なのですが、周りがしっかりしているので大丈夫!という構造になっています。老舗旅館の若旦那、みたいな世界ですね。自分のお父さんやおじいさんも、若い頃はみんなこんなハチャメチャな社会人だったんだと思うと愉快です。ぜひそんな風に楽しんで見てみてください!