忙しい忙しいといいつつ、帰ってきて夜に文庫本1冊読むくらいの時間はあるもんだ。
ちょっと沈んだ気持ちで、なぐさめにでもなりそうな本を選んでみたんだけど、かえって落ち込んだかもー。
18歳のときから8年間も妻子もちのカメラマンと暮らしてきて、ある日突然1本の長電話だけで捨てられてしまった女性が主人公で、町中を川が流れるふるさとの町に何も持たずに帰ってきて、だんだん持ち直していく・・・という話。都会での暮らしは、彼が買ったマンションで、就職もせずに彼をただ待って暮らすだけ、誰とも知り合おうとせず彼中心に暮らしてきたから、それがなくなると何もない。田舎の人々は川の流れにぼーっとしてしまったようだと感じたけど、祖母のやっている趣味の悪い喫茶店を手伝いながら、「バスターミナルの神様」や占い師の娘や、いろんな不思議な人と不思議な体験に出会いながら、夢のように少しずついやされていく。という昔と同じ少女マンガ的なやさしさとおだやかさのある作品です。
主人公の母や、知り合った青年のお父さんなど、必ずみんな誰か大切な人を喪失したところから始まる。「無理をしてはいけない」と、みんな喪失感の中で自分の弱っている状態をみょうにくっきりと自覚してる。
それでも読んでる者が意外といやされないのは、最初からいやしを目的として書いてるからじゃないか?
「キッチン」には運命の翻弄のまっただなかにいる人たちがそのままいたけど、ここには妙に翻弄なれした、あと何日で上向きに転じるとか、時間を計っているような人たちがいるんだな。暴力的な死が訪れても、それで汚れるわけじゃない、と宣言するところには、「無理」ではないけどすこし硬い感じを受ける。田舎らしいやわらかさというより、都会で気を張ってる自分に近い。
魔法もちょっと安易だよー。泣いちゃったけどさー。
私が泣くのは母の死とか人との別れとか、そのときの自分の気持ちをよみがえらせるキーワードがふんだんに盛り込まれてるからであって、読み進むのがちょっと胃が痛いみたいなところもありました。そーいう泣かせ方はいかんよ。
みんなが変わっててあたたかい、ムーミン谷のような架空の川の町のひとびと。東京の現実の生活からは一瞬逃避できたのは、よかったです。・・・さて課題読むか。