遠野遥「破局」594冊目

若い人の小説らしい、特有のその世代の匂いがあるなぁ。その一方で、癖の強い人物をみごとに描けることから、著者自身がヘンな奴で、自伝的に自分の不運を書いてるんだろうか、と思ってしまうのは、それが事実だからというより著者に筆力があるからかも。だって彼女1も彼女2も、女っぽいイヤらしさや奇妙なところも含めて、完全に生きているから。自分のことしか書けない人には、そういう若い女たちのおかしさをリアルに描くことはできない。

そういう意味で、「手練れに見えない手練れになる」という山田詠美の評に共感します。読んでいて嫌だなぁと思うほどリアルな登場人物を描ける人は構想力も文章力も高いのだ。

この主人公のその後は、通りすがりの人に暴行して大けがを負わせ、警察も来ているので新聞沙汰になって、内定間近だった公務員試験は不合格になる。その後はなかなか人気の出ない予備校教師になるか、大学院に入りなおして弁護士になるか。挫折を乗り越えて目立たないまあまあいい奴になったりするのかもな。と思えるくらい冷静でいたいような、「きっと一生うまくやっていくんだよ!」と思いこむくらい著者に転がされたいような。いずれにしても楽しみな新人です。