森博嗣「トーマの心臓」629冊目

先に萩尾望都のまんがを読んで、こっちも読んでみることにしました。森博嗣がノベライズ?したもの。

読み始めてみたら、けっこう小説と違う。トーマのほんとうの死因はなかなか明かされない。ユーリとエーリクが出会うのは墓地ではなくて公園。出かけた先でサイフリードと出会う場面に、肝心のユーリはいない。だいぶ読み進めたあとで、舞台がなんと日本だと気付く。カタカナの名前は全部教授がつけたあだ名ということになってる。先輩は上級生ではなく「院生」。トーマは金髪青い目だったけど、舞台が日本なので「エーリクのほうが髪が長い」という表現になってる。唯一の外国人がワーグナ教授で、オスカーの容貌は何かのヒントになっている。ユーリが傷ついた事件が起こった場所と時季が違っていて、オスカーがそのことを知ったのは部屋が分かれた後だ。ユーリが神学校に転向を決めたのはかなり前のことだった…きりがないけど、すべては、森博嗣が自分の言葉でこの物語を語りなおすために必要な修正だったんだと思います。

そして、とても読みやすく小説として魅力的。なんというか、まんがの舞台化のときの脚本を書くのってこういう感じなのかな。

ただ、全体を読み終えて、「わかったようなわからないような感じ」になるな。それはきらびやかな絵や、ときに大げさな感情の発露があったまんがの方を先に見てるからかな。でも物語の本質を深く理解して愛情をもって自分の言葉で描いた、ということが伝わってくる小説でした。 (2009年7月31日発行 1500円)