新刊が出たので読みたいけど、その前の小説も読んでなかったので、まずこれから。
読み始めてみたら、なんだこの中世イギリスっぽい”世界観”。主人公は老夫婦だけど、鬼が出る村があったり勇者が何かを退治に行ったり、私はロールプレイングゲームを始めたんだっけ?
不思議な”道具立て”の中を、やたらと弱っている鬼や竜を攻撃したりしながら、物語は結末を目指します。「これは本質的にはラブストーリー」だと作者は語っているそうです。昔のことを思い出せなくなっている老夫婦、どちらかの短い不貞があったのかなかったのか、息子は本当にいたのか、今もいるのか、どこにいるのか。記憶を竜に奪われた人々は竜退治のあと何を取り戻すのか。
愛の物語かもしれないけど、他の全ての人々もその結果に影響を受けるわけで。戦いが終わったあとの戦士ウィスタンの疲労感や、船頭の心配りがやたらと印象に残ります。そしてこの作家の知性は、人間や運命や記憶や時間や歴史や民族、さまざまな要素も盛り込んでいます。何度も読むときっと毎回違う面が気になってくるんじゃないかな。
もっと読んでみたいと思わせる作家ですよね。
(2015年6月15日4版 1900円)