この本は素晴らしい!
世の中って、なにかネガティブっぽいことを言うことがタブーのような”空気”が強くて、そうなると常にポジティブであれという重圧に耐えて笑い続けなければならなくて、もう生きていること自体が辛くなっていく、というおそろしい悪循環が生まれます。これは多分日本だけじゃなくて、どこの世界でも、どんな社会でもありうることですが。
でも、それに慣れすぎると現状を自分自身で認識することができず、自分で定義した自分を演じる無理を重ねていくことになります。病院で医師に「元気です!」と嘘をついても病気は治せないわけで、ポジティブな人もネガティブな人も心が風邪を引いた人も、まず自分を正しく認識することって何より大事。
絶望したことや自殺を考えたことがない人のほうが多分少ないんじゃないかな。私も自分や家族や人間関係のことでたっぷり絶望を味わって、「海の底から明るい水面を見上げている状態」とか「ジーザスは助けてくれないけど、一緒に泣いてくれている」(クリスチャンでもないのに)といったイメージを繰り返し思い浮かべてきたものでした。絶望の極致にいるときに読書した記憶はないけど、中学のころチープ・トリックの「Need your love」っていう長い曲を密閉型ヘッドフォンで何度も聴いてたのが、頭木さんの読書に匹敵するかな。きみの愛が必要だ、だけど振り向いてくれない、というニール・ヤング的な”仁王立ちして男泣き”の重ーい楽曲。「甘い罠」みたいなポップな曲を聴いてボーカルのルックスに夢中になってたわけではなくて、このバンドは暴力を描いたドラマに影響された殺人を取り上げた曲や、自殺した友達に捧げる曲もあったりして、その後ニルヴァーナとかに連なっていくアメリカの負の部分を表現しつづけたバンドでもあります。
海外からの客向けの観光ガイドをやろうと考えたときも、負の遺産めぐり(廃墟とか事件の起こった場所とか)が外国にはたくさんあったので、日本でやるといいんじゃないかと思ったくらいで、自分や自国をまるごと俯瞰することは大切だし面白い。美化した肖像画もいいけどエゴン・シーレもいいよね、みたいな。だから私はこの本や元になった番組の視点をとても支持します。「ラジオ深夜便」が今後もずっと、眠れない人の最後の避難場所として存続しますように。