ブレイディみかこ「RESPECT リスペクト」1026冊目

昔の女性アナキストについて学び、懐かしみ、憧れつつ、現代に生きる女性がアナキストとして立つ・・・という建付けは、他の小説と同様。こんどはサフラジェットと、ロンドンのシングルマザー用施設を追われた若い母たちが立ち上がるさまを対比しています。チャーミングなイラストのおかげもあり、「E15ロージズ」のメンバーがみんな素敵。特に・・・ブルース・ウィリス似のゴッドマザー的パンクおばちゃんが素敵すぎる。

その一方で、日本の大手新聞社の駐在員である史奈子の存在の描き方につい注目してしまう。バーバリーのトレンチコートを着てプラダのバッグを持った若い女性。私がロンドン駐在していたときは、日本支社からロンドン本社への研修だったので、日本の駐在員グループには入れてもらえなかったけど、ロンドン在住の”友達の友達”からは、苦労してる私と違ってあなたはいい御身分なんでしょ?と最初からDisられたのをおぼえてる。(結局、電話一本しただけで会わずじまいだった)私はバーバリーのコートを買うお金なんてなかったし(高くていいものだと思って欲しかったけど1ポンド250円の時代だ)、ブランドのバッグなんかいくら丈夫でもセンスよくないしみんなと同じものを高い金出して買う気が知れなかったけど、会社が借りてくれた、Poshな郵便番号の場所にある綺麗なフラットに住めて、いい御身分だったんだと思う。そういう、お高くてごめんなさいみたいな気持ちが、その後何十年もずっとある。

だから、史奈子を「日本の会社の中でずっとつぶされてきた女性」、E15ロージズの仲間として描いていることに少しほっとしてる・・・いやでも違うな。私は自由でリッチな外資系企業の女として、日本企業の人たちからも、ロンドンで苦労してる日本人からも、ちくちくと言われることが続いてきた。だからここ数年は、新しく知り合う人たちに、過去の話は一切しない。それで仲間にしてくれる人たちと、何も言わずに助け合って暮らす。仲良くなってから、これまでの話をすることもある。

多分、どこで何をしていても、肩書や会社やその他外面的に付随するものでその人を判断する人は、似た特徴を持つ人とだけ固まって暮らしていくんだろう。その中には、”自分たち”以外を強く疎外する人もいる。でも、今なら私は、自分と違う人たちをそれほど締め出さない人もたくさんいることを知ってるから、それほどもう怖くない。

私は誰も攻撃しないし、嫌いな人や攻撃する人も含めて、まあまあみんな幸せにやっていければいいと思ってるけど、世の中の常識や決まりに興味があまりないし、政府に頼る気も全くなくて、困ってる人どうしで助け合いながらやっていこうという意志は強いので、そういうのもアナキストの一種なのかな?だったらアナキスト上等。