トム・ケリー&ジョナサン・リットマン「発想する会社!」28

IDEOという会社があります。業種でいうとデザイン会社。なんでもデザインしてしまう会社です。AppleやMSのマウス、ショッピングカート、心臓発作を起した人のための除細動機もデザインします。副題は「世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」。

紙質もよく写真が多く、全ページカラーのきれいな本です。でも、もっと大判で字が少ない、絵本のような本でもよかったと思う。ビデオならさらにいい。百聞は一見にしかずなんですよ。彼らがショッピングカートをどうやってデザインしたかを取り上げた番組が評判を呼んだらしいんだけど、私がみたいのもそっちです。彼らが本当のところどんな風にイノベートするのか、テキストで語られてもわからないから見てみたい。

言葉はすこし、繰り返しが多く、文字数は多いけどちょっと読むのが面倒な感じがします。

あとね・・・彼らのすばらしいデザインの数々が掲載されてて、彼らの実用本位、プロトタイピング中心の考え方も共感するんだけど、失敗しそうだなぁ、と思う部分も多い。彼ら自身、たくさん失敗もした、高い授業料を払った、ということを認めていて、それはとてもいいことなんだけど、「種が仕込んであって芽が出るプラスチック製の名刺」とか、なんかジャマだしあげても迷惑がられそうで、私はぜったい欲しくないなぁと思うものもいっぱいある。

「オブジェ」というものを欲しいと思う人って人口の何パーセントくらいいるんだろう。アートのために高いお金を払い、広いスペースを開け、複雑な形のすみずみまで毎日掃除して、来客にその都度説明することを厭わない人。

私は「遊び心」というものがない方ではないと思うけど、オブジェというものはジャマだとしか思わない。

一方、エルゴノミクスとやらをよく研究したマウスならちょっと高くても買う。オブジェはいらないけどステキな版画ならあってもいいと思う。・・・うーんと、以上でわかったことから、私は多分不規則な形が嫌いで、視界を大きくさえぎったり片付けが難しくなるようなものを管理できないのだな。マウスくらい小さいものなら、どんなに変な形でもたいしたジャマにはならないから。

そういうわけで、この本には「待ってました!」とばかり共感する部分と、「あーあ、またこういうのかよ」って毛嫌いする部分があります。

役に立ちそう、というか、立てたい部分は、ブレインストーミングのやり方。ほぼ毎日ブレストしてる人たちが書いたものなので、なるほどと思います。

クリステンセンお気に入りのイノベーター、Sonyの人たちも、「うちにはどうにもならなかった失敗作もたっくさんあるんですよ」って言ってた。クリステンセン本人に(笑)。多分イノベーターの内情は、どこもそういう瓦礫の山なのかもしれません。うーん、正直なとこ、イノベーションはいいけど瓦礫の山はイヤだなぁ。

私はまだ彼らの仕事のヒントがつかめていないかもしれません。そんな印象の本でした。