1990年代っぽい、バブル疲れしてそこから降りたくなった人たちが出てくる作品だなぁ、と、まず思った。地方競輪が舞台の佐藤正午の小説とかさ。
この人の「センセイの鞄」という本を昔、女友達から読めと渡されたことがある。私がその主人公に似てるんですって。既婚の中年男に執着するうっとおしい女の話だと思った。その友達とはその後疎遠になったくらいで、彼女は私のことなど何一つ知らないし知ろうともしなかったんだなと思った。
しかしそのすぐ前に書かれたこの「溺レる」のほうは、ふしぎと共感できる部分がある。恋愛に不慣れな若いころは、なんとなく言い寄ってきた男とつきあい始めて、始めるとなんとなく離れがたくなったり、ずぶずぶとのめりこんだりするもんだ。そういう、まだ自分の軸を持たない大きい子供のような女の状態がなつかしいように思えてしまう。そう思うのは自分が年を取ったから、相手の中年男に近い気持ちで若い女を見るようになったからかも。
そして不思議に川上弘美は村田沙耶香を思わせる。二人とも研究者が顕微鏡を覗くように相手や自分を見てるのが面白い。ミクロでもありマクロでもある乾いた視点。