三島由紀夫「天人五衰(豊饒の海4)」649冊目

<ネタバレあり>

私が望んだ結末は、良しあしとか価値評価はさておき、輪廻転生が終わったのかどうかは明確にしたかった。ジン・ジャンに双子の姉妹がいたなんて一言も誰も言ってなかったんだから、慶子が再会したのが輪廻を終えた後生き延びた彼女自身だったかもしれない。あるいは、ジン・ジャンは日本を発つ前に子どもを産み落としており、その子が最初から月修寺で生まれ育ったとか。いずれにしても寺が最後の目的地となることはかなり早い段階で決めていたと思うので、そこで老いた本多が何を見出したかが結論になるはずだった。

偽物の出現はなかなか大胆な分岐だけど、DNAみたいにコピーミスが起こったのかなという気もする。透と絹江、二人あわせてやっと一人分だったりしても面白かったかも。彼女の懐妊は清顕の輪廻転生ではなく、本多の長い長いサイクルの輪廻転生の次に来るものだったのか。しかし本多にも慶子にも何の執着も運命も感じ取らなかった透は、やっぱり亜流だったとしか考えられないな。

自分の生を貫き通すために最後の作品の出来を譲歩とかしてほしくなかったな。彼は間違いなく歴史に残って世界中で読み継がれるようになったけど、私は「天人五衰」を完璧に完成させてノーベル文学賞を取ることで読み継がれてほしかったです。

それにしてもこの第4巻は、恐ろしい小説だった。なにものでもない凡庸な俗物の自分自身が、読んでいるうちに透と重なってきて。善と悪の近さ、凡庸な悪が自分を含む人間一般にどんな風に巣食っているか…そういうことを感じながら読みました。求められる長さの3/4程度で終わってしまって本当に残念です。