ブレイディみかこ「両手にトカレフ」832冊目

面白かった。意外とボリュームは軽く感じた。

読む前はタイトルから、敏腕女性スパイ(ロシアの?)が活躍するのかなと思ったけど、全然違った。両手にトカレフを持つのは、ミアの妄想のなかだった。

表紙の金髪の女子学生がUKで暮らすミア、黒髪の着物の女性が、ミアが読む本のなかの文子。実在したこの金子文子という人を私は知らなかったんだけど、厳しい運命を自分で切り開こうとした大正時代の強い女性だった。この時代に戦った女性としては伊藤野枝の伝記を読んだことがあるけど、共通した独立心の強さを見てしまう。この時代には家族や親しい人以外と情報をやりとりすることがほとんどなかったし、どんなに虐げられていても、助けるための機関もなかった。自力でなんとかしなければ一生そのまま。今はいろんな立場の人たちを助けるための機関が大量に存在するけど、現実には助けが天から降ってくることはまれだ。誰も助けてくれないという前提で、自分を守るために戦う覚悟が、なかなか持てなくなってる。でも今も、自分の戦いは自分で戦うしかないのかもしれない。

みかこさんの他の本を読んだとき、彼女の賢さや強さのなかに、自分が傷ついてきたことから生まれた人への深い思いやりを感じたことがあった。この本も、傷ついている女の子たちになんとか壊れずに生き延びてほしい、という思いが感じられて、ちょっと泣きそうになる。

ミアが刺激を受けた金子文子の、この本に書かれていないその後のみじかい人生のことを思うと、過激すぎてたいがいの大人がお手本にするなと言いそうだけど、戦い方は違ってもいい、非暴力不服従でもいいけど、自分を見失わずに、自分のために(弟のため、とかではなく)戦い続けるんだよ、というメッセージなのだと思ったのでした。