辻村美月「傲慢と善良」1066冊目

400ページもあるのに、一気に読み切ってしまった。むずかしくない、というのもあるけど、読ませる。面白い。そして、真面目だ。善意もずるさも併せ持ったうえで誠実すぎるくらい誠実な小説で、この本の主役の真実が書いたんじゃないかと思うくらい。

いろんなことを、言われた通りに受け取る人もいれば、裏をうまく読み取る人もいる。無駄に人を信じて無駄に疑われて、人間関係にどんどん疲れていく人もいる。

「悪意と純真」でなく「傲慢と善良」としたタイトルにも、ものすごく誠実さを感じる。人は善悪で分けられるのではなくて、ウブな女子にも子どもにも傲慢さはあるし、百戦錬磨の派手な女たちにも善良さはあるのだ。

これ映画になるのね。SNSで、ごく短いフレーズだけでものごとの白黒をつけてしまいがちな世の中だけど、この小説は「ほんとにそうか?」を深く、深く、掘り下げていきます。一人でなく、二人で、相手のプロフィールの奥にある、見えていなかった部分を知ろうとする努力をする。それがとても大事だと思う。批判したり糾弾するためじゃなくて、勇気を出してもっと近づくために。

こういう真面目さとか丁寧さって、ほんと大事。「まじめ」が笑われるのは見ていて切ないし、向き合って話すことを、大事にしていかないとなぁ。私自身も。