村田喜代子「姉の島」911冊目

やっぱり村田喜代子の小説は面白い。日本のというか九州八幡のマジック・リアリズムだ。更年期やガンとの戦いをテーマにした小説たちを経て、彼女の世界はふわふわしていた娘時代の空想に戻ってきたようです。どこまでがいわゆる現実で、どこからが空想か、どのへんがこっちの世界でどのへんがあっちの世界か。お迎えを待つだけの日々薄れていく意識の中では、そんなことはどうでもいい。老婆最強です。

その中に真実もある。五島列島沖に、鯨のような廃潜水艦がたくさん沈んでいることも、九州の田舎の若者たちが大勢兵隊にとられて亡くなったことも。(私の母方の伯父もみんな帰ってこなかった)初代からの天皇や七草にちなんだ斬新なネーミングの”海山”も実在する。海女たちが海で出産したのも多分事実だろう。胎内みたいな暗い海に潜るのが仕事の海女たちは、さまざまな不思議を実体験として持っているんだろうな。

人間ごときがいくら科学を極めたところで、人智を超えたものごとの方が永遠に多いのだ。不思議を畏れ、不思議のふところに抱かれる彼女たちの姿に、心が広くなるような読書体験でした。さらにさらに、天国へ上ったあとの小説なんかもどんどん書いてほしいです。