ロビー・ロバートソン「自伝 ザ・バンドの青春」682冊目

この本をもとにしたドキュメンタリー映画をやっと見たので、本の方も読みたくなってしまった。上下二段で515ページという分厚い本だけど、ロビー・ロバートソンの生い立ちからザ・バンド解散直前の「ラスト・ワルツ」まで、彼と一緒に一生を生きなおすかのような臨場感のある、冒険譚といってもいいくらいの面白さで、どんどん読み進んでしまいました。

「ロバートソン」という名字は北欧のものだけど、彼の出自はネイティブ・アメリカンの母と”トロントの裏社会を牛耳ってきた”ユダヤ人の父。白人といっても”そんなに白くもない”と彼は言っています。(ロバートソンは母の結婚相手の姓で、ロビーと血のつながりはない)

ユダヤの父系の親戚がみんなずば抜けた記憶力の持ち主で(祖母は禁酒法時代に、客の連絡先を全部暗記して密造酒を売りさばいていたとのこと)、ロビーも信じられないほど対バンしたミュージシャンたち、出会った女性たち、あらゆることをよく覚えているので、だから創作のように微に入り細を穿つ描写ができるんだ。

彼は文中で元ビートルズの故ブライアン・ジョーンズを「おそろしく顔が広い」と言っているけど、ロビー自身、あらゆる人と出会ってそれを楽しみ、分析してプロデュースする能力に長けていることがわかります。ザ・バンドって無垢なツアーバンドだと思ってたけど、ロビーというプロデューサーが交じってたから、あそこまで行けたんだな。ロビーに限らず、リーヴォン、リック、リチャード、ガースやロニー・ホーキンス、ボブ・ディランといった兄弟みたいなミュージシャンたちがどんな人だったのかという興味も、この本で満足しました。ロビーは頭脳と才能を持って人を動かしてきたけど、バンド仲間は彼の掌で踊らされている感じもあったかも。彼はすごくがんばったし成果も大きかったけど、感謝されることが少ないし、逆に恨みも買う。…なんかわかるような気がします。ちょっと孤独な人生だな。彼は愛する人なのに、うまくやればやるほど、愛されなくなってしまう。プロデューサーとして頭一つ上から他のメンバーは見下ろされているような気分だったのかもしれない。

ジミー・ジョーンズと名乗っていた頃のジミヘンと親しくなったり、ニューヨークではアンディ・ウォーホールと一緒にサルバトール・ダリのスイートを訪ねたり。 ザ・バンドってほんと謙虚で目立たないバンドってイメージだったけど、むしろ派手とも言えるこの交友関係。ラスト・ワルツのあれほどのゲスト陣も、彼の常日頃の外交のたまものか。(Wikipediaに載ってたリーヴォンの言葉「ロビーが自分の仲間を連れてきた、自分たちはほとんど知らないのに)

改めて「Music from the Big Pink」と「The Band」を聴いてみたら、メトロノームとはだいぶズレたリズム、不必要なフェイドアウト、あんまりうまくないドラム(普段ピアノを弾いてるリチャードによるもの)とかに気づいた。でもこれがいいんだ。きれいに録ったらマジックが消えてしまう。

ザ・バンドってなんか特別にロマンチックな、旅芸人的な魅力のあるバンドだったので、ついつい深く知りたくなってしまう。こんなバンドってもう出てこないだろうな。秘密を守り続けるバンドと、プライベートもバレバレのバンドしか今はもういないから…。