今井むつみ・秋田喜美「言語の本質」1014冊目

見た目もタイトルも、おそろしく地味。ためにはなるけど堅くてあまり面白くない本・・・に見えます。最初のほうは私もそう思って読んでいました。私は言語にふだんから興味のある方だから、オノマトペだけでぐいぐい読めるけど・・・って。

書きぶりも、面白さ重視じゃないんですよ。まさかこの本が、中盤から劇的に面白くなるとは。

この本自体が誠実な学者による論文のような、仮説と、それを証明するためのかっちりとした検証の繰り返しです。この検証実験がね、いい。言語をまだ習得していない8カ月の赤ちゃんに、必要なアイテムを仕込んだ動画を見せて、その視線をたどって習得度合いを測るとか、効果測定の前提がいちいち納得感あるんですよね。対照実験としてチンパンジーに同じ実験をするとか。総体としてはチンパンジーアブダクション能力はないけど、一匹だけ人間と同じ能力の可能性を見せた個体がいた、とか。

言語学を教科書だけでかじった者としては、チョムスキー生成文法って何だろう、人間だけが言語獲得装置を生まれ持っているってほんとかな、などまったく半信半疑のまま生きてきたんだけど、その言語獲得装置というのは、この本のなかで証明された「AはXである」から「XはAである」という対称的推論を行う能力のことだったってことか、とちょっと乱暴に納得してしまったのでした。人間がもつ言語習得能力は、人間とそれ以外の動物を決定的に分けたけど、その能力があることで「逆もまた真」と思い込みすぎることで、人間は先入観や偏見をも性質として生まれ持ってしまったのかもしれないですね。。。

いろんなことがつながった、ミッシング・リンクが可視化された、という気がして、小さな研究かもしれないけど、こういうのにノーベル賞とか上げてほしい気がするのでした。この本がベストセラーということは、日本の読書家って捨てたもんじゃないんじゃない?