やっぱりこの人の本は面白い・・・
なんというか、読んでいると時空がちょっと歪む。自分自身の感覚はともかく、「常識的には世の中ってこういうものだよね?」という見方があるとして、それに対して”色メガネ”以上の、万華鏡を通して世の中を見ているような世界観のズレを感じる。本当はみんな、少しずつ個性的な見方をしてるけど、世の中的にはこうだよね、という無言の予定調和の中で安心してる部分がある。それが、彼女には違和感でしかないらしい。そうはっきり書かれると、そういえば私も違和感を感じてたことがあったな・・・と思い出す。
どの短編も面白いけど、やっぱり表題作「信仰」は最高ですね。”鼻の穴のホワイトニング”なんて、あるわけないのになんだかありそうに思える。浄水器でだまされたのに、それにリベンジしたい一方で何かを信じ続けていたくて、教祖になってしまう女性。ただ人をだまして儲けたい、とだけ考えている男性。主人公は疑いつつ気になって足をつっこんだままになっているんだけど、この小説のなかでは彼女が一番共感できる。・・・本を閉じると、「でも結局こういう人が騙されるんだよね?」と少し冷静になるんだけど。
何かを信じ続けていたい気持ちは、すごくわかる。私の頭の中にも永遠のお花畑のようなものがあって、小さい子やひどい境遇の人たちがみんな笑顔で暮らしてるイメージが浮かんでる。いつかそんな境地に行けたらいいのに。死ねばそんな天国に行けるのかしら。とか。・・・でもそれを「お花畑」と自己認識できるようになったのは自分のなかでは進歩だ。だから、慈善活動をやっていても、今の自分はちゃんとどこか冷静でいられる。
それと、この人の小説はなにかとても品がいいですね。それは彼女が、荒唐無稽を演出する必要がないくらいユニークなものが書けるからだと思う。なんかすごいものを書こう、クレイジーなものを書こう、などと野心を持つと、いわゆるエログロナンセンスに走ることもあるだろうけど、彼女にはそんな必要はない。抑えめでも十分いつも新しいしインパクトがある。
引き続き、ぼちぼち読んでいきます。