佐藤ジョアナ玲子「ホープレス in ドナウ川」1057冊目

この人ほんとに面白い。去年読んで激賞した最初の本「ホームレス女子大生川を下る」に続いて、愉快だ、興味深い、考えさせられる、人生観にまで影響する、といった”面白い”ということばが意味しうるさまざまな感慨が全部この2冊目にも詰まっています。

しかし、アメリカ1国内をめぐるミシシッピ川下りでも心配だったけど、言葉もあまり通じない、政治も文化も人も食べ物も何も知らないヨーロッパ各国を川岸から回るのが、読んでて心配でしかたありません。実際のところは、都内の道を歩いていても、ぱっと見安全そうなSNSを眺めているだけでも、生命の危険はすぐそこまで迫ってるわけで、人生はgoing concernであり世界中どこにいても危険と感動に満ちているわけなので、みんな行きたいところに行ってやりたいことをやればいい、やるしかないんだよな。ずっと自宅にいたい人は、出たくない間はいつづければいい。

”ひきこもり”から”ジョアナ”までの1-10のスケールがあるとすると、私はジョアナ寄りの8.5あたりでしょうか。だからまた安定した仕事をひとつ辞めて、全然食えない仕事のほうにシフトしかかっている。外に開けた方に向かっている。世界中どこにいても、外の人とのコミュニケーションが大部分を占める仕事だ。年をとってくるとだんだん、今生のうちにあと何と何ができるかな?ということを考えるようになる。だからますます、今この瞬間にやりたいことの方にシフトしていく。

旅行ばっかりしてた頃は、”旅行が好きな人”と認識されることが多くて違和感があった。今は海外に行きたいとか地の果てを見たいという感覚はなくて、もうちょっとちゃんと人と向き合いたくなってる。アウトバウンドでありつつ、実際は来る人を迎えてる。方向性は外に向かってるように見えるかもしれないけど、もっと深めていきたいんだと思う。

頭で目標を決める前に自分の心をのぞきこむと、どっちに向かいたがっているか、何から離れたいか、おおざっぱな方向性が見える。これを外れるととても不幸な感じになってどんどん体調が悪くなるので、そこだけは譲歩してはいけない、がんばりどころなのだ。

私もがんばるから、みんながんばろうね。

 

スティーヴン・ハンター「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」1056冊目

<結末にふれています>

「あの本、読みました?」という番組があって、読書家の女子アナが何人か登場した際に、グレイヘアで上質な着物をたおやかに着こなした近藤サトが「ぜったいおススメの本を1冊だけ選んで」であげたのが、この本。よほど面白いのかなと思って読んでみて驚いた。なんて乱暴で暴力的でクソでゲスで最低な娯楽小説だ!!

さきほどの形容詞が全部適用される、異常に頭が切れるが最低最恐の犯罪者、ラマーに立ち向かうのが、典型的な男が憧れるジョン・ウェイン的警官バドは、実は自分の相棒の若い妻と激しく不倫をしていて、それを気に病んでもいる。

ラマーが、知恵はないけど強烈な体格と腕力を持つ彼の弟オーデル(いっしょに服役中)と、美術の才能はあるけどまるで腰抜けのリチャードを伴って脱獄をはかるところからこの小説は始まり、ラマーは最初の章が終わるまでにすでに数名を暴力的に殺害します。このあたりから後半に至るまでは、殺戮に殺戮を重ねる逃亡劇が続き、読むのちょっとしんどいかな~と思ったりします。

しかし終盤からの勢いがすごい。バドはなんの巡りあわせか、1度バドに撃たれて一命をとどめたあと再びまた彼の居場所にたどりつき、三度彼の潜伏地に乗り込んだ際にまたまた撃たれて、その後3カ月も生死の境をさまよいます。

<以下ネタバレというか、そうはならなかった結末について勝手に書いています>

ちなみに、最後に彼が乗り込んだのはバドの愛人ホリーの家。ホリーは殺されないよう、バドの妻を装うのですが、リチャードだけが「バドの息子の母にしては若すぎる」と指摘しても「あの子は彼の連れ子なのよ」とホリーに切り返されて、バレずに済みます。実はこの浮気は息子にバレていて(妻にも)、追い詰められたバドはこの直前にホリーに別れを告げたあとでした。命を救いに戻ったのはヒーローポリスとしては当然だけど、食い下がるホリーに平手打ちをくらわしたあとは、ラマーでもリチャードでもなく逆上したホリーに撃たれてバド死ぬ、となるのかなと思って見てしまいました。映画の見すぎで心が歪んでる、私。

ともかく終盤の盛り上がりがすごくて、こんな小説を好む近藤サトってなんてビッチなんだ、とか書きそうになってたけど、推薦する気持ちもわかるわと思ってしまった私も十分ビッチなのでした。

 

友井羊「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん~巡る季節のミネストローネ~」1055冊目

とても人気のあるシリーズと聞いて、読んでみました。「殺人事件が起こらなくても面白いミステリーは書ける」が証明された!と嬉しい気持ちになります。

登場人物がみんなすごく好感が持てます。魅力的だけどありえないほどのフィクション感がなく、常識が通じる、きちんと暮らしている人たち。名前もひねりすぎてないし。トリックは、本格ミステリ好きな人には、あっさりしすぎているかもしれないけど、これなら老若男女誰でも楽しく読める、という意義はとても大きいと思います。

この巻では店主の麻野と常連客の理恵のロマンスが頂点を迎える場面があって、そこの扱いも丁寧でよかったです。

え この方男性なの?

つい画像をググってしまったら、理恵のほうじゃなくて麻野に近い人が現れました。なんとなくだけど、この人の書くものなら、これからも安心して読めそう。(怖い描写や悪趣味なネタはきっとあんまりないだろう)

このシリーズはこの本で完結してしまったようだけど、長時間電車で移動するときとかに2冊くらい持って行きたいなと思いました。どんな人にもおススメできます。

 

河﨑秋子「ともぐい」1054冊目

すごく迫力のある作品でした!獣臭い山育ちの漁師、人間らしい情を知らず獣たちに恐れられる存在。「白鯨」みたいに最後まで猟師としての人生を全うするのかと思ったら、日本は日露戦争へ突き進む時代、懇意にしてくれていた獲物の買い手は没落し、自分も熊に逆襲されたとき重いけがを負い、生活に大きな変化が生まれていきます。その中で、主人公自身の人生観が変わっていくのがちょっと新鮮です。

めとった異形の女は、彼の女房としての生活に収まりきることなく、最後まで山の生活を全うするのは名前も与えられない飼い犬だけ。ハードボイルドだ!

こんな小説を書ける女性ってカッコいいです。彼女の描くほかの男たちにも興味がでてきました。(女をどう描くかも興味津々です)

ともぐい

ともぐい

Amazon

 

斎藤幸平「ゼロからの「資本論」」1053冊目

読み始めてすぐ、なんか記憶にあると思ったら、「100分de名著」の書籍化だった。番組テキストやテキストから派生したムックって、長く書店に置かれないし、そもそも学術的な内容が多いので、新書化するのはいいアイデアだなぁ。

資本論」は読んだことないけど「共産党宣言」は若い頃に読んで、「あれ、なんか思ったよりまともな本だ」と思った記憶がある。私はもともと、ぜいたくが身につかないタチで、豪華ホテルに間違って泊まることがあっても、広い部屋の隅っこで結局ただ仕事をしてるだけだったり、高い服を買ってみても着ない、高級食材はコレステロール高でむしろ避けたい、というほうなので、給料は使い残して必要な人とシェアするのがいいと思う。(そんなことを言えるのは私に家族もいないからだけど)

マルクスソ連やほかの社会主義国を同一視するのはおかしい、というのも納得。意図したわけじゃないけど、ロシアの端っこや旧ソ連諸国、キューバベトナムを旅行したときに、それぞれの似た部分と全然違う部分に気づくことはとても興味深い経験だった。

数日前にベトナムから帰ってきて、あの国もとても不思議だなと感じている。感覚として、どこが社会主義なのか全然わからない。だいぶ前に別の町に旅行したときは、ガイドの口調に社会主義であることの誇りやアメリカへの反感を感じたけど、今回はむしろ資本主義各国への共感とほかの社会主義国の批判を聞くことがあった。これからもう少し、ベトナムのことを調べてみたいなと思っている。(話がそれちゃったけど)

 

出井康博「移民クライシス」1052冊目

”偽装留学生”や技能実習生が日本でさいなまれている問題について、まずこの本を読んでおけと言われて読んでみました。ほんとに、複数の問題をそれぞれ周到に取材して掘り下げた、読み応えのある本でした。ボリュームの割に中身が詰まっています。

日本語教師(ボランティアと非常勤講師という、この本にも書かれてるようにきびしい立場)としていくつかの国の人たちと話す機会はあるけど、これほどの本音は聞けてない。彼らの日本語力の問題もあるし、彼ら自身が問題や原因を把握しきれてないのもあるだろう。「自分の国の人間は信用できない」という言葉を聞いたことがある。それは、まだ日本の悪い人のことを知らないからだ。日本の悪い人のほうが周到にいい人のように振舞ってるんじゃないかな。

奇しくも今週末から私はハノイに飛ぶ予定。日本語学校や送り出し機関にも行ってみる予定だけど、私に何が発見できるだろう?できるだけのことを観察して、どこかに投稿するつもりなので、がんばります。

 

リンクアップ著「ゼロからはじめるGoogle Meet基本&便利技」1051冊目

Microsoft Teamsに続いてこの本も読んでみました。Google Meetも、「1:1以上の会議を60分以上やる場合、有料版が必要」かつ「無料版ユーザーが招待するセミナーにはGoogleアカウントからしか参加できない」そうです。(私の手元にあるこの本は2021年2月発行なので、ウェブ上の最新情報も確認)

私は主に1:1のオンラインレッスンをやってるので、問題は人数じゃなくて時間や機能制限なんですよね。Google Meetは、さまざまなツールを提供しているGoogleの会議アプリなので、さぞ拡張性がすごいんだろう、と思ったら、それほど他のツールと変わらない印象もあります。Microsoft Teamsほどではないけど、多少高機能な有料版のほうは企業向けなのかな、と思いました。Google Workspaceの会社アカウントもいくつかもらってるので、それを使う手はあるんですけどね。

一度ZOOM有料アカウントを持ってしまうと、あえて他に乗り換えるのって難しいですね。しかし年間1万円を超えるライセンス料は無料のボランティアレッスンをやってる者にはイタイ。割引とか、ないもんかなぁ~~。