本)文学、文芸全般

松尾スズキ「同姓同名小説」472冊目

2002年の小説。16年前だ。みのもんた、川島なお美、田代まさし、小泉孝太郎といった実在の人々(と同姓同名の誰か)を主人公とした短編集ですが、今やお亡くなりになった人もいれば、話題に上らなくなった人もいて、こういう本を16年後に読むのってもし…

恩田陸「蜜蜂と遠雷」469-470冊目

蜜蜂と遠雷 面白かったー!恩田陸の本はいつもだけど、感受性が鋭敏かつ強靭で、それを文章にする力が高いですよね。そして、音楽と音楽家に対する愛情に嘘がない。本当にすごい作家だなぁ。なんかバカみたいにベタ褒めだけど。 登場人物がそれぞれ痛みも喜…

中上健次「千年の愉楽」468冊目

面白かった。実際、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似てるところがたくさんあるし、独特の、私が思っている典型的な日本の風景とは違う風景を見せてもらえてすごく面白かった。高貴で濁った血が流れる中本の美しい若者たちって、どうイメージすればい…

ミシェル・ウェルベック「服従」467冊目

フランスにイスラム政権が発足する、という小説。「え!?』極右政党が一般人を攻撃するようになり、穏健派で常識派のイスラム党の党首に一気に人気が流れて、まさかの選挙結果により左派とイスラム党による連合政権が発足するんだけど、党首の実力で彼が大…

ミハイル・ブルガーコフ「巨匠とマルガリータ」465冊目

ものすごく面白い小説だった。荒唐無稽、抱腹絶倒、でも愛あり涙あり(あったっけ?)、しかし破綻なく、信じられないくらい新しかった。 読み進めるにつれて感じたことを時系列的に書くと・・・最初は悪魔らしき人物が登場してショッキングな事件を予告する…

村上春樹「騎士団長殺し」460-462冊目

一応たしなみとして、村上春樹の長編は読むことにしてる。買うかどうするか毎回迷うんだけど、今回は発売半年後、十分価格が下がったところで古本を購入。図書館の待ち人数は400人台です。 以下ネタバレ。構成上のことをいうと、この本は珍しくパラレル構…

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)455〜459冊目

読んだ〜〜。重かった。おもしろかった。ドストエフスキーって蠍座だよね。まさに蠍座的な作品だった。敬虔でありながら放蕩で、情愛深くかつ冷徹で、誰にも興味を持たず自分の不運を嘆きあげる人たち。特定の人だけにそういう特質があるわけじゃない。人の…

佐藤正午「小説家の四季」454冊目

このエッセイも、出てたことを最近知ったので早速買って読みました。「書くインタビュー」では書ききれない著者の日常のことや、そこはかとないユーモアが、このくらいのボリュームの文章だと自由に広がりますね。インタビューの方は精神的にあまりいい状態…

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」450冊目

この人もうまいな。佐藤正午(今や直木賞作家)がべた褒めするくらいで。しかし、この人の面白さは、やっぱり「ありそうにないことを組み合わせる」部分で、結末にもつれ込む上で、私としては特に含めてくれなくてもいいなと思うエピソードもたくさん、たく…

夏目漱石「こころ」449冊目

もう7月なかば。そろそろ、この先の生き方を考えてみなきゃと思って、こわごわ再読。実家にあった文学全集を何冊か持ってきてるので、常にこの本は書棚の奥にありました。(昭和44年発行) あらすじはおぼえてるつもりだったけど、主人公を「先生」と呼ぶ書…

早見 和真「イノセント・デイズ」448冊目

ビヨークが主演したラース・フォン・トリアーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に匹敵する、アンチクライマックス。もう最近は、こういう小説を読んでも映画を見ても、ハッピーエンドなんて期待しなくなってる。多分私だけじゃなくて、たくさんの人が。 読み…

鏑木蓮「京都西陣シェアハウス」446冊目

小説だったー。この3日間でシェアハウスに関する本を6冊も読んだんだけど、キーワード検索だけで借りたら小説も何冊か混じってたwでもこれが実に面白く深かった。読んでる間はちょっとギスギスした感じなのに、読み終わると清々しい。とても不思議な小説で…

宮本輝「草花たちの静かな誓い」445本目

「泥の河」くらいしか読んだことはないのですが、地を這うような生活をしている人たちに温かく寄り添う作家さんだと思っていたので、この作品のどこか軽く、明るい印象がちょっと意外でした。テーマは決して軽くないのに、カラッとした晴天の多いカリフォル…

佐藤正午「月の満ち欠け」444冊目

一番好きな作家の"20年ぶりの書き下ろし長編小説”ということで、4月発売だしそれなら大きい書店の店頭にあるかなと思ったら、1軒目にはなく、2軒目でやっと買えました。こんな新作があるなら、ゴールデンウィークは旅行しないで家でまったり読書でもすれ…

佐藤正午「ダンスホール」443冊目

また本を読まなくなった私ですが、久々に読み終えたのは、だいぶ前に買って読みかけてたこの短編集。この人の小説を読んでると神経が落ち着いてきます。東京とは違う時間の流れが、この人が舞台とする長崎なり福岡なりの九州の小都市にはあるし。バリバリ会…

山下澄人「しんせかい」438冊目

写真を先に見たからか、ずいぶん無骨なごっついオッサンだな、文章もおっさんっぽいなと思いながら読んでたのに、ある時点で不器用な少年が書いた文章にしか見えなくなった。 このおっさんのことだから、19歳のときも”紅顔の美少年”じゃなくておっさんっぽ…

佐々木譲「エトロフ発緊急電」434冊目

面白かった。単行本、二段組、400ページ弱というボリュームで、謎解きのない冒険小説です。エトロフ島に住むロシア混血女性ゆき、日系アメリカ人二世で米軍スパイとなった賢一郎、彼を追う軍人磯田、南京で中国人の恋人を日本兵に殺された牧師スレンセン…

日疋信・日疋冬子「志集第56号 無風 その中の生と死」426冊目

乱読、というのはこういうのをいうのかしら。 おもむろに手当たり次第に、興味のおもむくまま本を読む今日このごろ。 通りがかった新宿西口陸橋下で、あの人が立って「私の志集」を売っていました。 私が上京した30年前から、ずっとそこにいる。Big Issue…

西加奈子「漁港の肉子ちゃん」423冊目

西加奈子らしい作品だなぁ。太っているけど、変な顔をするけど、あたたかくて大好き、という世界。この人の世界には、人と交わることに対する強い不安があるけど、本格的な脅威や絶望は存在しない。読んでる自分は今けっこう、絶望的な気持ちだったりするの…

浅生鴨「アグニオン」422冊目

Twitterで有名なNHKPR1号さんがNHKを退職して作家になった。それがこの人で、彼の初めての小説がこれです。twitterは在職中も今もフォローしてるし、彼のやけにナイーブで正直な感性がとても面白いといつも思ってたので、いつか読もうと思ってたんだけど、い…

ミルチャ・エリアーデ「マイトレイ」421冊目

池澤夏樹が選んだ「現代世界の十大小説」っていう新書(後日、こっちも感想を書く予定)の中で選ばれてたので、図書館で借りてみました。ルーマニア人の若者がインドで研究中に下宿をさせてもらった名家の令嬢と恋に落ち、父親に仲を引き裂かれた、という著…

森瑤子「デザートはあなた」419冊目

ある”業界人”の男が、彼を取り巻く麗しき女性たちに様々な料理を自ら振る舞い、その度に「デザートは、あ・な・た」(実際は恋人以外は食べないんだけど)、っていうバブリーな短編集。バブルというより、高度成長期の香りさえする1991年発行作品。まだ弾け…

羽田圭介「成功者K」417冊目

20年ぶりくらいかも、文芸誌を買ってみたらこの長編がまるまる載ってました。なにこの人、露出狂的私小説家?と思いながら読み進めていくうちに、いや違うな、できすぎてる、とうっすら気付くんだけど、面白いので乗せられたまま進んでいきましょう。 感想:…

石光真清「曠野の花〜石光真清の手記1〜4」413〜416冊目

明治の軍人で、日露戦争前の満州で諜報活動に従事して目覚ましい活躍を残した実在の人物、石光真清の膨大な手記のうち2冊目を読みました。1冊目は生い立ちから諜報活動開始前まで、この2冊目は開戦までの一番スリリングで面白い部分だと思われます。 感想…

川上弘美「センセイの鞄」412冊目

いいお話だった。うんと年上の人を愛するようになるというのが、どういうことか、初めて少しわかった気がする。「センセイ」というのが、じわじわと味の出てくる人物で、月子さんの感情はどこか受け身。高校卒業後10年以上たって再会し、しょっちゅう飲み…

有川浩「阪急電車」411冊目

面白かった。大勢の登場人物のそれぞれが生き生きと愛嬌いっぱいで魅力的。時系列を、阪急今津線というこじんまりとしたローカル電車の各駅に停車しつつ進めていく「群像劇」なんだけど、その工夫や人物造形の魅力だけに止まらない、人生観の深さが感じられ…

村田沙耶香「授乳」409冊目

2冊読んだあとは、タイトルを見ただけでヤバい感がぞわぞわと来る。内容は、やっぱり。この人ってゲイやバイの指向はないけど、性を嫌悪する「アセクシュアル」を指向してるのかしら、もしかして。男性も女性も、性を感じさせるものが同じように嫌い。ちな…

村田沙耶香「殺人出産」408冊目

へー。激しいなぁ、この本は、「コンビニ人間」よりずっと。何しろ、10人産めば1人殺していい、だもんね。ただし、筆致はあくまでも静か。カズオイシグロの「わたしを離さないで」みたいな、残酷さがふつうになっている世界。村田沙耶香って人は常に「何が…

村田沙耶香「コンビニ人間」407冊目

面白かった。ゲラゲラ笑えた。でもこういう、“普通じゃない”人たちの本音をゲラゲラ笑うのって、非人道的なんだろうか。最近、何がpolitically correctなのか、よくわからなくなってきました。 主人公の古倉(36歳女性)もなかなか強烈だけど、ロクデナシで…

辻村深月「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」406冊目

読み進むにつれて、だいたい筋はわかってるつもりになってたのに、「最後の最後にやってくる感動」というのは本当だった。この涙は、この先自分と自分の母親の間に、新しい道筋をつけるのかもしれない。一時的なものかもしれないけど。 答のないものだから、…