トム佐藤「マイクロソフト戦記 - 世界標準の作られ方」150

ビジネススクールで取り上げずにいられないデファクト・スタンダードの典型例・・・といえば、マイクロソフトWindowsですが、また聞きにまた聞きを重ねた人が想像で書いたもの(世の中の本のたいがいがこれだ)を読んでも、ビルゲイツIBMと交渉したときの空気や、日本のメーカーとライセンスしたときの雰囲気はもはや伝わってきません。割と、1995年あたりに書かれて今はAmazonマーケットプレイスで1円で売られてるようなゴシップっぽい本なんかを読むと、当時の雰囲気が残ってたりするけど、この本はもっと実感がありますね。80年代にマイクロソフトに入って日本のWindowsのライセンスに最初に携わった人が日本語で当時を語り、分析していますので。

PC業界が形作られていった時代を実際に生きていた一人の人による、Another story、という感じ。生の声ってのはいいもんです。ひとりひとり見たもの、感じたことが違う。だからリアルなんですね。

この本の強みは、淡々と、面白おかしく、事実を語っているところ。感傷にふけることなく、MS批判にも礼賛にも傾かず。600ページに及ぶ「インテルの戦略」のような戦略分析本ではないので、文献というより参考資料という感じで読むとよいかと。

出だしはなぜかロンドン大学に(著者はイギリスで高等教育を受けています)安置、というより堂々と展示されているジェレミーベンサムのミイラの話から始まります。ベンサムってむかし教科書に出てきた人じゃないですか。そのひとが遺言でミイラになって、今も学生たちを監視?しているそうです。・・・

というトリビアのためにミイラを持ち出したわけではなくて、彼の説いた「最大多数の最大幸福」こそがWindowsの勝利の真髄だ、とつながっていきます。

そうなんだよな。メーカーは商品を差別化したいけど、マニア以外のユーザーはコンピュータなんてどれでもいい。ちゃんと動けばデザインがカッコイイ方がいい(ここを熟知してるのがSteve Jobsだ)。OSなんて正直動いてくれれば何だっていいので、差別化なんかしないでできるだけ安くて互換性が高いものがほしい。

マイクロソフトって会社が、設立当時からとっ散らかった会社で、現場の優秀でまじめなスタッフが、トップのおおざっぱな号令をinterpretして実践し、会社を支えてきたことが、よくわかりました。著者の明るい語り口が、そういうすべてを笑い話にしている、読後感のいい本です。